硯筥すずりばこ)” の例文
基経は姫のひつぎに、香匳こうれん双鶴そうかくの鏡、塗扇ぬりおうぎ硯筥すずりばこ一式等をおさめ、さくらかさね御衣おんぞ、薄色のに、練色ねりいろあやうちぎを揃えて入れた。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
つて光悦作と伝えらるる船橋蒔絵まきえ硯筥すずりばこをみたときも、私はそれを指で押してみたい誘惑を禁じえなかった。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
そして隅の方に眠たげにひかえている小姓へ向い、硯筥すずりばこを求めて、その扇子へ何やらしたため終ると
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もうちっとしたら貰えましょうと慰めるのも油になって、やゝ久しく無言で居たが、筆をと云うに女が硯筥すずりばこを持来り、りましょうという下からもはや筆を溜り水に染めて
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
屏風びょうぶの陰に用い慣れた寄木よせきの小机を置く。高岡塗たかおかぬり蒔絵まきえ硯筥すずりばこは書物と共に違棚ちがいだなに移した。机の上には油をした瓦器かわらけを供えて、昼ながらの灯火ともしびを一本の灯心とうしんける。灯心は新らしい。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「いや、おもしろうなったぞ。雪はよし、酒はよし、これで吉野太夫が見えれば申し分のないところ。光悦どの、使いをやんなされ。——これ、これ女、そこの硯筥すずりばこ、硯筥」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
硯筥すずりばこを横に、おあるじの白い影は、いま筆をいたかのように、そこに独りせきとしていた。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こういって晴季はるすえは、千鳥棚ちどりだな硯筥すずりばこ懐紙かいしを取りよせ、さらさらと文言もんごんをしたためだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
閑張かんばりの小机があります。お蝶は覆面のまま前に坐っておりましたが、思いついた風に、硯筥すずりばこふたをとり、有合せの江戸川紙へこんな文字を幾つもうつつに書き散らしてみる。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、命じ、さらに硯筥すずりばこをこれへと求めて、恵瓊の眼のまえで書判かきはんしるした。そして白い小皿のうえに左手の小指をかざし、刃をあてて血しおを出し、書判のわきへさらに血判を加えた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
介三郎は硯筥すずりばこをもとの位置へおくと、そこから両手をつかえて、無言に
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてただ料紙と硯筥すずりばことを藤吉郎の前へ持って来た。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
硯筥すずりばこを取ってくれた近所の細君へ示してたずねた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「蘭丸。料紙と硯筥すずりばこを」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
料紙りょうし硯筥すずりばこがあるか」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)