まわ)” の例文
半「そんな事を云ってもいかんよ、悪事を平気な泥坊とはいいながら、目をまわしたなりお蘭さんを此の本堂の下の石室いしむろの中へ生埋いきうめにしたね」
今の宗助なら目をまわしかねない事々物々が、ことごとく壮快の二字を彼の額に焼き付けべく、その時は反射して来たのである。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
智深の体にたかッたと見えたものは、みなそれ、一さつに目をまわす蠅の旋舞せんぶといささかの違いもない。——智深は早くも番所小屋の高床たかゆかに戻って
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もう一人のフイちゃんとは揃いも揃ってこのカント・デックのめかけだって事がそんな時のあっしにわかったら、そのまんま目をまわしちゃったかも知れませんね。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
はっと思ったその瞬間運八はグラグラと眼がまわった。それから彼はバッタリ倒れ、そのまま気絶をしたのである。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
忘れもしねえ、暑い土用の最中さなかに、ひもじい腹かかえて、神田から鉄砲洲まで急ぎの客人を載せって、やれやれと思って棍棒を卸すてえとぐらぐらと目がまわって其処へ打倒ぶったおれた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私はその匂を嗅ぐと、いっそう空腹すきはらがたまらなくなって、牽々ぐらぐらと目がまわるように覚えた。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
「なんでございましょうか。わたくしもぞっとしました。相手がお武家ですから好うござんしたが、わたくし共のような臆病な者でしたら、すぐに眼をまわしてしまったかも知れません」
半七捕物帳:19 お照の父 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
……第一背中へつかまられて、一呼吸ひといきでもこたえられるかどうだか、実はそれさえ覚束おぼつかない。悪くすると、そのまま目をまわして打倒ぶったおれようも知れんのさ。ていよく按摩さんに掴み殺されるといった形だ。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それも天気だと、朝から客が立込んで私は目がまわる程忙しいし、雪江さんもお友達が遊びに来たり、お友達の処へ遊びに行ったりして、私の事なんぞ忘れているから、天気は糞だ。雨降りに限る。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
歓喜した婆さん二人は、眼でもまわしたようにチョコチョコ露地の横丁へ走り込んだ。そこの露地からは、翌日葬式とむらいが出た。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
男「おい/\番頭さん見てやれ/\、長く湯にへえっていたものだから眼がまわって顛倒ひっくりかえったのだろう」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「サテはそんな事だったか……ウ——ン」と眼をまわされる筈だ……とまず一本へこましておいて……サテ、この事件に対する吾輩の研究が、その後どんな風に進展して行ったかという実況を
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「そいつも察しておくんなさいよ。いくら精進潔斎だって、この七日ほどは、干団子ほしだんごしか食ッちゃいません。きのうからもう目がまわりそうなんで」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
船「まア/\おめえさん、安心して目でもまわすといかねえ、薬でも飲まっせえ」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
眼がまわって来たア……。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
陽なたへ出ると、彼は、ぐらぐらと眼がまわった。ゆうべの門番は、小屋の中で、ひるの弁当を喰べていたが
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
猛獣でも眼をまわすほどな神経があるものかと、蜀の諸大将は笑い合って、彼の仮檻房かりかんぼうを覗いて通った。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
トム公は、眼がまわるほどきまりが悪かった。そして、決して嫌ではないけれど、お光さんの手を突っ放すようにして、掻っ払いのように、あわてて、人混みの中へ駈けこんでしまった。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、眼のまわるほど、舞い連れ、舞いつづけ
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)