田面たのも)” の例文
意外おもいのほかに暇どりて、日も全く西に沈み、夕月田面たのもに映るころようやくにして帰り着けば。鷲郎わしろうははや門にりて、黄金丸が帰着かえりを待ちわびけん。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
と、つづいてウワーッという、海賊どもの喚き声が聞こえ、忽ち田面たのもいなごのように、胴の間口から七、八人の、海賊どもが飛び出して来た。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
朝霧ゆふ霧のまぎれに、声のみらして過ぎゆくもをかしく、更けたるまくらに鐘のきこえて、月すむ田面たのもおつらんかげ思ひやるも哀れ深しや。
あきあはせ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それは田圃の近道をば田面たのもの風と蓮の花の薫りとに見残した昨夜ゆうべの夢をたくしつつ曲輪くるわからの帰途かえりを急ぐ人たちであろう。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
八月二十六日床を出でて先ず欄干にる。空よく晴れて朝風やゝ肌寒く露の小萩のみだれを吹いて葉鶏頭はげいとうの色鮮やかに穂先おおかた黄ばみたる田面たのもを見渡す。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
義郎ぎろうが贈つたといふよりも実際目の前でこしらへて見せた田面たのもの人形といふのがある。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
みがきてにはかげも心地こゝちよげなるを籠居たれこめてのみ居給ゐたまふは御躰おからだにもどくなるものをとお八重やへさま/″\にいざなひてほとりちかき景色けしき田面たのもいほわびたるもまた
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ながめ千町せんちょう田面たのものみどりになびく風に凉みてしばらくいきをのぶとぞ聞えし又物部もののべおきな牛込うしごめにいませし頃にやありけん南郭なんかく春台しゅんだい蘭亭らんていをはじめとしてこのほとりの十五景を
「心も晴るる夜半の月、田面たのもにうつる人影にぱつと立つのは、アレ雁金かりがね女夫めおとづれ。」これは畢竟ひっきょう枯荻落雁の画趣を取って俗謡に移し入れたもので、寺門静軒てらかどせいけんが『江頭百詠』の中に
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)