燎原りょうげん)” の例文
元亀三年十二月、三方ヶ原の一戦に敗れて以来、隠忍に隠忍を重ねてきた戦力が、今こそ燎原りょうげんの火と燃えあがったのだ。
日本婦道記:萱笠 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
燎原りょうげんの火とばかり、魔の手をひろげて行った黄巾賊の勢力は、今では青州せいしゅう幽州ゆうしゅう徐州じょしゅう冀州きしゅう荊州けいしゅう揚州ようしゅう兗州えんしゅう予州よしゅう等の諸地方に及んでいた。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もしも国民の大多数の尊敬しあるいは憎悪するような人が死にでもすればそのうわさは口から口へいわゆる燎原りょうげんの火のように伝えられるものである。
一つの思考実験 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
燎原りょうげんの火の如く、千里眼が全国に拡がり、いたる処に千里眼者が出現したのも無理のない話である。
千里眼その他 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
ともかく、東国に燎原りょうげんの火のごとく、源氏はその数を増す状勢にあって、平家は恩賞を行ない、公卿は先例と古式を墨守して儀式の形骸をとりつくろうのに忙がしかった。
そして思想をして旋風たらしめよ。あの群集は昇華され得るであろう。時々にひらめき激し震えるあの広大なる主義と徳との燎原りょうげんの火を、利用し得る道を知ろうではないか。
小初は腰の左手を上へ挙げて、額に翳している右の腕にえ、まぶしくないよう眼庇まびさしを深くして、今更いまさらのように文化の燎原りょうげんに立ちのぼる晩夏の陽炎かげろうを見入って、深い溜息ためいきをした。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そして、今、この誤れる思想が、燎原りょうげんの火の如く、白人の間にひろがっているのだ。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
食糧騒動が突発して燎原りょうげんの勢で拡大するに及んで、一方に軍隊の力を以て民衆を威圧すると共に、倉皇として穀物収用令を出したり、富豪の義金を促して内外米の廉売を初めさせたりして
食糧騒動について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
だが、そうした「なやまし芝居」は、燎原りょうげんの火のように、ひろがっていった。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
加察加カムサッカの鮭、にしん宛然さながら燎原りょうげんの火の如く、又は蘇国ソヴェートの空軍の如く、無辺際の青空に天翔あまかける形勢を示したが、その途端、何気なく差した湊屋の盃を受けて唇に当てたのが運の尽き、一瞬のうちに全局面を
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
燎原りょうげんの勢を成すに至らんことをおそるるに似たり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「いや、そういうな。宮門の火の手が、洛陽一面の火の手になり、洛陽の火の手が、天下を燎原りょうげんの火としてしまったら取返しがつかんじゃないか」
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実際そんな単純な考えが熱狂的な少数の人の口から群集の間に燎原りょうげんの火のようにひろがって、「芝」を根もとまで焼き払おうとした例が西洋の歴史などにないでもなかった。
芝刈り (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
と、口々に言い騒ぐ兵の声に、ふと目をさまして見ると、なるほど、洛外の西から南へかけて、燎原りょうげんの火ともいえる炎の波がえんえんと横に長く望まれた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手をこまぬいて、越後から三国山脈をこえて襲う燎原りょうげんの火のような侵略を見ているほかない状態であった。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
支那全土を挙げて戦火に連なる戦火の燎原りょうげんと化せしめ、その広汎な陣炎は、北は蒙疆もうきょうの遠くをおか
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——賊は燎原りょうげんの火の勢いです。あるいは、木曾路をへて尾張黒田へ打って出るやもしれません。一刻もはやく尾張方面へ、お防ぎの軍勢をくだしおかれますように」
馬場美濃守みののかみ信房の息、昌房まさふさのたてこもっていた要害深志城ふかしじょうも、またたくまに陥ちてしまい、これへ迫っていた織田長益ながます、丹羽氏次うじつぐ、木曾義昌などの合流軍も、燎原りょうげんの火のように
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
豊田一帯の火は、夜になると、いよいよその範囲を、燎原りょうげんのすがたに、拡げていた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何かに吐け口を見なければやまない物騒な青春の火——その火が運命の燎原りょうげんをみずから焼いているのだ。最初の小さい一つの過失が、次第に、罪から罪を生み、果てなく罪業ざいごうをつんでゆく。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「もちろんだ、さもなくて、わずかなまに、立川流などと申すいかがわしき教義が、そうそう燎原りょうげんの火のごとく世俗の中に弘まるはずはない。ま、とにかくそんな坊主なのだ、あの今道鏡いまどうきょうは」
一刻もはやくこれはご征伐なさらなければ、遂に、燎原りょうげんの火となりましょう
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとえ毛利家がいかに強大でも、公方くぼうの残存勢力を擁する三好党みよしとうがどんなに抗戦してみても、織田信長のまえには、到底、焼かれる燎原りょうげんの草でしかないことを、その信念で繰返したにとどまる。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
燎原りょうげん
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)