ところ)” の例文
旧字:
十万円の現金をもつてゐるといふのに比べると、それだけの提琴ヴアイオリンを持つてゐるといふのは、何だか一寸奥ゆかしいところが無いでもない。
妹とはても肖つかぬ丸顔の、色の白い、何処と言つて美しいところはないが、少し藪睨みの気味なのと片笑靨かたゑくぼのあるのとに人好きのする表情があつた。
札幌 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
古希臘こギリシヤの文明に比べて何一つ進歩してゐない、哲学も、芸術も、道徳も、宗教も、みんな希臘にあつた儘で、少しも違つたところがない。
二人の話はモウ以前の様にはづまなくなつた。吉野が来てからの智恵子は、何処となく変つたところが見える。さればと言つて別に自分をいとふ様な様子も見せぬ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
清浦奎吾きようらけいご氏は持前の容貌かほたちが、頭は尖つてゐるし、眼は小さし、余りどつとしないので、せめて態度やうすにでもしつかりしたところが無くつちやと
と言ひながら、耐らないと言つたふうに頬擦りをする。赤児を可愛がる処女には男の心を擽る様なところがある。
札幌 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
高田氏は鷹揚に訊いたが、いつも出掛でかけには夫人にさう言はれつけてゐるので、言葉の調子に何処か女らしいところがあつた。
『先生に見られても、少しも小言を言はれるところが無い様に出来たか?』
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
仏蘭西の作家モリエエルは、自分の作物さくぶつが出来上ると、先づ婆さんの女中に読み聞かせてみて、婆さんの解らないところは幾度か書き直したといふ事だ。
其児が人一倍悪戯わるさけて、横着で、時にはその生先おひさきが危まれる様な事まで為出しでかす為には違ひないが、一つは渠の性質に、其麽そんな事をして或る感情の満足を求めると言つた様なところがあるのと、又
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
それだのに自分がそんなに評判を立てられるといふのは、この二人にところがないに相違ない。座頭役、かたき役の評判では見物は来ないものだといふのだ。
かつきりとした肩の張には、何となく気位があつて、いつだつたか主人佐渡守の家で、余所ながら拝見した肩衝とかいふ茶入にそつくりなところがあるやうに思ひました。
小壺狩 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
「お忙しいところを、お邪魔にあがりまして相済みませんが……」女商人をんなあきんどは丁寧にお辞儀をした。頭の下げやうが、どこか婦人雑誌の口絵によくたやうなところがあつた。
南画にはまだ解らないところもたんとあつたが、女の事だけは何もも大抵知り抜いた積りでゐた。
落すにはそれ/″\自分が手につた方法をえらんで差支さしつかへないが、たゞ落すその一瞬間は鶏に気取けどられぬ程の微妙デリケートところが無くてはならぬ。気取られたが最後肉の味はまづくなる。