潜戸くぐり)” の例文
旧字:潛戸
トムちやんが茅葺屋根の潜戸くぐりけると、遥に唱歌隊がこちらに近づいて来るのが見られました。向ふでもトムちやんを見つけました。
女王 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
鴻山は別な用口ようぐちへ廻って、奥坊主の者に、源内秘方の蘭薬を、お千絵にのますことを言いのこして、急ぎ足に裏門の潜戸くぐりをぬけ出した。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
気の付いたのは寅刻ななつ(午前四時)少し前、それから大騒動になったが、庫裡の潜戸くぐりを外からコジ開けてあったから、泥棒は外から入ったにちげえねえ
三尺をまた半分にした、ようようからだのはいられるだけの小さい潜戸くぐりは、まだ日も暮れぬのに、かためきって、留守かと思うほどひっそりしている。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
潜戸くぐりを開けて入って行った。玄関まで八間はあったろう。スベスベの石畳が敷き詰めてあった。しっとりと露が下りていた。高い松の植込みがあった。
銀三十枚 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
四谷左門町さもんちょう。路をへだてて右どなりが戸沢主計頭とざわかずえのかみの上屋敷。源氏塀げんじべいの西がわについて行くと、なるほど、けやきの裏門がある。さるいて潜戸くぐりをおすと、これが、スッとひらく。
顎十郎捕物帳:16 菊香水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
父六兵衛の寝息をうかがって、しずかに土間へおりたお露、潜戸くぐりをあけた。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「どうぞお入りやして」といって、私のつづいて入ったあとをかんぬきを差してかたかた締めておいて、また先きに立って入口の潜戸くぐりをがらりとけて入った。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
恟々おずおずと少しずつ潜戸くぐりの方へ身を動かして行きながらも、しきりと誰かをさがすように、浪人たちの休息している本堂のほうを濡れた眼で見ているのだった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その時一つの人影が闇の中から産まれたようにどこからともなく現われて正面の横の潜戸くぐりの前で、戸に身を寄せて立ち止まった。内部なかを窺っているらしい。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「そんな事があるものか、御身分柄内々の質入だ。主人に逢えば判る、潜戸くぐりをちょいと開けてくんな」
『山門の潜戸くぐりをお閉めください。あれが開いておるので、無断で用もないやからが立ち入って困る。この酒樽と一緒に、この人間も、追い立てていただきたい』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は急いで格子をすべり下りて、すぐ左手の隣りのうちではまだ潜戸くぐりを閉めずにあったので、それを幸いと、そこの入口に身を忍ばせてあがかまちに腰を掛けながら
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
そのスースーと泳ぐような足で開いたままの潜戸くぐりから煙りのように闇夜の戸外そとへ消えて行った。
日置流系図 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一応住職にも小僧にも逢い、壊された潜戸くぐりから、掘り返された新墓、砂利や古金を詰めた三つの千両箱を見すましましたが、八五郎の報告以上の手掛りは一つもありません。
くるりと老武士は方向むきを変えると吸われるように潜戸くぐりの隙から戸外そとの夜の闇にまぎれ込んだ。
日置流系図 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「手引きがあるなら、あんな岩乗かんじょう潜戸くぐりを、外から外すような不器用なことはしねえよ」
母親の姿が路次の曲り角を廻って見えなくなると、私は小走りに急いで後を追うてゆくと、母親は、やっぱり過日いつかの三軒並んだ中央まんなかの家の潜戸くぐりを開けて入ってゆくところであった。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
それでも黙って上がって行くのは厚かましいようで、二、三度大きな声をかけると、やがて階段を下りて来る足音がして、外からかぬように、ぴたりとめた奥の潜戸くぐり彼方むこう
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
それでも足音を忍ばせてそっと表戸へ近寄ると潜戸くぐりかんぬきへ両手を掛けた。
日置流系図 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「この潜戸くぐりも開いちゃいなかったそうですよ、親分」
そっと音のせぬように潜戸くぐりを引っ張ってみても、相変らず閉めきっていて動かない。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
飛び飛びに藁葺わらぶきの百姓家があった。ぼんやり春の月が出た。と一軒の屋敷があった。大名方の控え屋敷と見え、数寄すきの中にもいかめしい構え、黒板塀がめぐらしてあった。裏門の潜戸くぐりがギーと開いた。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
曲淵甲斐守まがりぶちかいのかみの使者でござる。ただし、私用、潜戸くぐりを開けられい」
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
レザールは潜戸くぐりから忍び込んだ。忽ち潜戸の戸が閉まる。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)