滋味じみ)” の例文
径路けいろせまきところは、一歩を留めて、人に行かしめ、滋味じみこまやかなるものは、三分を減じて人にゆずりてたしなましむ、これはれ、世をわたる一の極安楽法ごくあんらくほうなり」
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ととっさに見きわめて、畳のうえに呼び入れて差し向かい、一問一答のあいだにきくすべき興趣きょうしゅ滋味じみこんこんとして泉のよう——とうとう夜があけてしまった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
これは、決して、虚飾きょしょくや、阿諛あゆからではなくて、如何いかなる場合にも他人に一縷いちるの逃げみちを与えてくつろがせるだけの余裕を、氏の善良性が氏から分泌ぶんぴつさせる自然の滋味じみほかならないのです。
さういふ残物のこりものつめたくつた豆腐汁とうふじるとをつゝいてもむぎまじらぬめしくちにはうへもない滋味じみなので、女房等にようばうら強健きやうけんかつ擴大くわくだいされたれるかぎりはくちこれむさぼつてまないのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
数〻しばしば社参するうちに、修験者らから神怪幻詭げんきの偉いだんなどを聞かされて、身に浸みたのであろう、長ずるに及んで何不自由なき大名の身でありながら、葷腥くんせいを遠ざけて滋味じみくらわず、身を持する謹厳で
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
という古語の滋味じみをあらためて心のうちに噛みしめていた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は客の旦那衆に対し物しずかに普通に話した。それでいて旦那衆は馥郁ふくいくとした滋味じみと馥郁とした暖味とに包まれるばかりでなく、心の底から世間の用心のかかけがねを外ずして打ち解けられた。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)