海苔巻のりまき)” の例文
海苔巻のりまきなら身体からださわりゃしないよ。折角姉さんが健ちゃんに御馳走ごちそうしようと思って取ったんだから、是非食べて御くれな。いやかい」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お女中が来て今日はお美味いし海苔巻のりまきだから早やく来て食べろと言ったが当頭とうとう俺は往かないで仕事を仕続けてやったのだ。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
平吉の体はお師匠さんのあたまの上から、海苔巻のりまきや、うで玉子の出ている胴の間の赤毛布あかゲットの上へ転げ落ちた。
ひょっとこ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
おばあさんの、心づくしの海苔巻のりまきの握り飯を、頬ばらうとすると、どうしたはずみか握り飯を手から落した。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
僕は障子のはずしてある柱に背を倚せ掛けて、敷居の上にしゃがんで、海苔巻のりまきの鮓を頬張りながら、外を見ている振をして、実は絶えず飾磨屋の様子を見ている。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
自分はちっとも気がつかなかったが、あとで聞いたところによると、先生が海苔巻のりまきにはしをつけると自分も海苔巻を食う。先生が卵を食うと自分も卵を取り上げる。
夏目漱石先生の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
僕の足もとになど、よく小さな葉っぱが海苔巻のりまきのように巻かれたまま落ちていますが、そのなかには芋虫いもむしの幼虫が包まれているんだと思うと、ちょっとぞっとします。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
砂のうえに毛氈もうせん薄縁うすべりをしいて、にぎり飯や海苔巻のりまきすしを頬張っているのもあった。彼等はあたたかい潮風に吹かれながら、飲む、食う、しゃべる、笑うのに余念もなかった。
半七捕物帳:32 海坊主 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
日頃顔を見知った八百屋やおや夫婦も、本町から市町の方へ曲ろうとする角のあたりに陣取って青い顔の亭主と肥った内儀かみさんとが互に片肌抜かたはだぬぎで、稲荷鮨いなりずしけたり、海苔巻のりまきを作ったりした。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
第四十四 肥前の押鮨おしずし 鮨と申せば普通の海苔巻のりまきや五目鮨は夏の巻の本文にくわしく出ておりますからここには変ったものを出しましょう。肥前風の押鮨と申すのはなかなか結構なものです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
要は彼女が小皿の上へ取ってくれる玉子焼の海苔巻のりまきをつまみながら云った。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
おりつとおゆうとで握り飯や海苔巻のりまきをつくり、お菜の重詰めもこしらえた。
ちいさこべ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
(略)さて当日の模様をざっと書いて見ると、酒の良いのを二升、そら豆の塩茹しおゆで胡瓜きゅうり香物こうのものを酒のさかなに、干瓢かんぴょうの代りに山葵わさびを入れた海苔巻のりまきを出した。菓子折を注文して、それを長屋の軒別に配った。
深川の散歩 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
 (おつやは海苔巻のりまきを一つ取ってる。太吉は旅人の顔をぬすみながらかしらを振る。)
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
捨吉は桜の樹の方へ向いて、幹事の配って来た折詰の海苔巻のりまきを食いながら
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
海苔巻のりまきなんぞを無理に詰めこむのだった。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「なかなか立派な蒔絵のがありますね。中に這入っているものも、玉子焼きだの海苔巻のりまきだの似たようなものばかりじゃないですか。この辺では始終こう云う芝居があるんで、弁当のおかずも自然と一定しているんでしょうな」
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
 (おつやは海苔巻のりまきすしを取ってやれば、太吉は平気で食う。)
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)