浮木うき)” の例文
馬鹿げた長い顎をつンのばして、うっそりと浮木うきを眺めている。垢染んだ黒羽二重の袷に冷めし草履。釣をするなんて恰好じゃない。
顎十郎捕物帳:09 丹頂の鶴 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
浮木うきは直径二、三分のものを三個つけて、錘との調節は仕掛けを振り込んで浮木が三尺ほど流れる時、錘が水底に着き浮木が流れ止まるようにするのである。
細流の興趣 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
今初いまはじめたばかりです。』とうち浮木うきがグイとしづんだからあはすと、餌釣ゑづりとしては、中々なか/\おほきいのがあがつた。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
魚も本当に釣る気かどうか、下僕に餌を付けさせ、浮木うき下のあんばいもなにもなく、はりを放りこみ、思い出したようにあげてみて、餌を替えさせてまた放りこむ。
半之助祝言 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
すこし飽きて来て、もう浮木うきの方へは眼もくれず、足もとに乱れて咲いている草の花などをながめているうちに、ふと或る小さい花が水の上にただよっているのを見つけた。
水鬼 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
雪枝ゆきえ作品さくひんならべたところは、あだか釣糸つりいとけた浮木うきさかな風情ふぜいであつた。……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
樹木の茂った丘の崖下の低地の池のまわりには、今日も常連らしい半纏着はんてんぎの男や、親方らしい年輩の男や、番頭らしい男やが五六人、釣竿を側にして板の台に坐って、浮木うきを眺めている。
遁走 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
白い玉浮木うきがフワフワと流れてスイと横に動く味は、どの釣りにも求め得られない。竿も仕掛けも極めて軽く、そして繊細に作れば一層この釣りの妙所を味わい得る。
細流の興趣 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
いつまでたってもうごかない浮木うきをながめながら、ぼんやりと考えしずんでいたが、ちいさなためいきをつくと、あしを一本折り取って、それを鞭のように振りながら
キャラコさん:03 蘆と木笛 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
老人は斧田のために場所を選び、餌のつけかたや浮木うき下の加減をみたのち、並んで草の中へ座った。
麦藁帽子 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
小さな浮木うきほどになっていたのが、ツウと浮いて、板ぐるみ、グイと傾いて、水のおもにぴたりとついたと思うと、罔竜あまりょうかしらえがける鬼火ひとだまのごとき一条ひとすじの脈が、竜の口からむくりといて
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
多くは石亀いしがめ(川虫)を餌にした虫釣りか、十本五銭位で買える菜種鈎なたねばりという黄色い粗末な毛鈎で、浮木うき流しをやっているのと、職業漁師が友釣りとゴロ引きをやっていた。
想い出 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
特にえさの中でも、御馳走の川蝦は、あの松がしんせつに、そこらですくって来てくれたんで、それをちぎって釣る時分は、浮木うきが水面に届くか届かぬに、ちょろり、かいずさらってしまう。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寒烈、指の先が落ちさるような正月のある日、茨城県稲藪郡平田の新利根川へ寒鮒釣りに伴ったが、それでも海釣りよりも淡水で、糸と浮木うき揺曳ようえいをながめる方が楽しめるという。
(新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
小さな浮木うきほどに成つて居たのが、ツウと浮いて、板ぐるみ、グイと傾いて、水のおもにぴたりとついたと思ふと、罔竜あまりょうかしらえがける鬼火ひとだまの如き一条ひとすじみゃくが、たつくちからむくりといて、水を一文字いちもんじ
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
浮木うき釣りと脈釣りと二種あって、全く流れのないところでは浮木を用い、緩やかな流れのあるところでは浮木をつけないで穂先の当たりによって鮒が餌に絡まったのを知るのである。
寒鮒 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)