泰斗たいと)” の例文
その日の二時過ぐる頃、美奈子の打った急電に依って、かねて美奈子の傷を治療したことのある外科の泰斗たいと近藤博士が、け付けた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ロシアのパウロフという生理学の泰斗たいとが工夫したものでありまして、例の如く鯉坂君は、パウロフの報告だけでは満足せず
新案探偵法 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
物産学の泰斗たいと和蘭陀オランダ語はぺらぺら。日本で最初の電気機械、「発電箱エレキテル・セレステ」を模作するかと思うと、廻転蚊取器マワストカートルなんていうとぼけたものも発明する。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
緒方洪庵おがたこうあんの如き、佐藤泰然さとうたいぜんの如き、伊東玄朴いとうげんぼくの如きは皆医学の泰斗たいとであると同時に、また新文明の先駆者であった。
はなかけ卜斎ぼくさいの名にそむかず、容貌ようぼうこそ、いたってみにくいが、さすが北越ほくえつ梟雄きょうゆう鬼柴田おにしばたの腹心であり、かつ攻城学こうじょうがく泰斗たいとという貫禄かんろくが、どこかに光っている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
動物組織学の泰斗たいとにして、一九一九年より同二五年にわたる間、らん領アンゴラ、サマザンカ地方において、夫人とともに類人猿解剖および言語の研究に従事。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
一 論より証拠は今日文壇の泰斗たいとと仰がるる人々を見よかし。森先生の弱冠にして『読売新聞』に投書せられしは今のいはゆる地方青年投書家の投書と同じからず。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
我国女流教育家の泰斗たいととしての下田歌子女史は、別の機会に残してつとに后の宮の御見出しにあずかり、歌子の名を御下命になったのは女史の十六歳の時だというが
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
考古学の泰斗たいと鳥居龍蔵博士の御家庭は、創業当時の中村屋にとり大切なおとくいでした。
電車の中の広告にも、武士道の鼓吹者こすいしゃ、浪界の泰斗たいとと云う肩書附で、絶えずこの名が出ているから、いやでも読まざることを得ぬのである。或る時何やらの雑誌で秋水の肖像を見た。
余興 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
一年前に物理化学の泰斗たいとである辻川博士がとつぜん大学教授の職をなげうって、まるで専門違いの蜘蛛の研究をはじめたときは、世間にかなり大きいセンセーションをまきおこしたが
蜘蛛 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
従つてそれだけの領域では、田山氏はユニイクだと云はうが何だらうが差支へない。が、氏を自然主義の小説家たり、かつ思想家たる文壇の泰斗たいとと考へる事は、今よりも更に出来憎かつた。
あの頃の自分の事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ところがその近代科学の泰斗たいとヘポメニアス氏の偉大なる脳髄は、すこぶる大胆巧妙を極めたトリックを使って、自分が発見した死人の脳髄の機能を、絶対の秘密裡に封じてしまったものである。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
すでにして快活民権派の泰斗たいと、今の板垣伯は自由党なるものを組織し、次に翻訳民権派は今の大隈伯を戴きて改進党を組織せり、しかして二派ともに時の政府に向かいてその論鋒を揃えたり。
近時政論考 (新字新仮名) / 陸羯南(著)
有名なる動物組織学の泰斗たいと、前ケムブリッジ大学教授、ヴィルダー・ゲイレック博士一行の捜査のため倫敦大学派遣のエムメット・スティヴンス教授一行が領アンゴラ
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
然し、彼の勢力へへつらうのはいやだと思った。大坂与力という官僚色、洗心洞塾の門下の数、王陽明おうようめい学派の泰斗たいとという名声。それらが、何時もちょっと山陽の頭を高くさせた。
梅颸の杖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は、皮膚病学の泰斗たいとがそれについてどういう言説をなしているかを知って、自分の激しく動揺する良心を落ち着けたいと思った。彼は悄然しょうぜんとして、船の文庫ライブラリーの方へ歩いて行った。
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
シュールは東洋文学研究の泰斗たいととして各国に知られている博士アルフォンズ、シュールの夫人で、始め良人に従い支那に遊ぶ事十余年、日本に留ることまた更に数年にして一度本国に帰ったが
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そして、自作の詩文を評し合い、また、時代の新思想とされている宋学を論究したり、時には、当代の泰斗たいとを招いて、その講義を聴く——というおそろしく、まじめな会でもある。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その本邦医学の泰斗たいと、曲直瀬道三は、今暁からまだ朝飯もたべていないはずである。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
新しい宋学そうがく泰斗たいとである。特に、急進派の若公卿ばらの間に人気がたかい。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)