水瓜すいか)” の例文
夕飯過に、三吉は町から大きな水瓜すいかを買って戻って来た。思いのほかお俊も元気なので、叔父は安心して、勉めてくれる娘達を慰めようとした。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
コロロフォルムを嗅がして置いて枕の上に混沌としているやつを、水瓜すいかを割るように斧でざっくり遣る手口、コウツもヘルグラインも耐ったものではない。
斧を持った夫人の像 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
それからよこの方へ少しまがったように見えましたが、たちまち山が水瓜すいかを割ったようにまっ二つに開き、黄色や褐色かっしょくけむりがぷうっと高く高く噴きあげました。
起きぬけに木の下で冷たい水蜜桃をもいでがぶりと喰いついたり、朝露に冷え切った水瓜すいかを畑で拳固げんこって食うたり、自然の子が自然に還る快味は言葉に尽せぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
水瓜すいかを売りにくる婆さんがそう云った。だが、日出時の東の水平線は大抵雲に閉されていた。
月明 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
それからうちへ帰って、きらずを買って来て四人の飯をくし、近所の使をして、二文三文ずつ貰った。うちの娘は三十ばかり気のいいやつで、時々水瓜すいかなどを買ってくれた。
二階は手摺てすりつきで、廻り椽になっているので、西に向いた曲り角に来ると、焼岳がそっくり見える、朝早く起きたときには、活火山というよりも、水瓜すいかか何ぞの静物を観るように
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
「少し似ているね、実を云うと僕と老梅とはそんなに差異はないからな。とにかく、その御夏さんに結婚を申し込んで、まだ返事を聞かないうちに水瓜すいかが食いたくなったんだがね」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
水瓜すいか冬瓜とうがんせり独活うどの如きは利水性にて小水を促す。妊婦の初期には禁ずべし。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
と、水瓜すいかばたけへ泥棒どろぼうがはいったように、口をひんまげて考えこんだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ああのべつ幕なしに甘いもの——名物こんぺいとう・乾し無花果いちぢく水瓜すいかの皮の砂糖煮・等等等——を頬ばっていられるわけがなかったし、そのため、今にもぱちんと音がして破けそうに肥っていたが
車夫の家で、私達は水瓜すいかを食べた。
「※さんがそれを間違えて、『何だ、これは、水瓜すいかなら食え』なんて仰有おっしゃって、船の中でほどいて見ましたッけ……」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
水瓜すいかを並べて置いて、そのなかをみつくろって撲ったつもりで米友は、少しばかり溜飲りゅういんを下げて、行列の崩れたのを後ろに、今度は群衆の足許をくぐって元のところへ走り込むと
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「皮が厚いからなかなか骨が折れるだろう」と碌さんは水瓜すいかのような事を云う。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あまり美事みごとの出来だからと云うて、廻沢めぐりさわから大きな水瓜すいか唯一個かついで売りに来た。緑地に黒縞くろしまのある洋種の丸水瓜まるすいかである。重量三貫五百目、三十五銭は高くない。井戸にやして、午後切って食う。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しまいには新築の二階座敷を四間よまともに吾有わがゆうとした。余は比較的閑寂な月日のもとに、吸飲すいのみから牛乳を飲んで生きていた。一度はさじで突きくだいた水瓜すいかの底からいて出る赤い汁を飲ましてもらった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
余等は毎日寺の下の川淵かわぶちおよぎ、三度〻〻南瓜とうなすで飯を食わされた。村から水瓜すいかを買うて来て、川にひたして置いて食ったりした。余は今記念の為に、川に下りて川水の中から赤い石と白い石とをひろった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)