水指みずさし)” の例文
ちょうどここにある水指みずさしのなかから白い色だけをとって、そうして物質を離れて白い色が存在すると主張するようなものであります。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
枕許まくらもとにあった水指みずさしから、湯呑に水をさしてお絹が竜之助の手に渡しました。ふるえた手で竜之助はその湯呑を受取ろうとして取落す。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ここには水指みずさし漱茶碗うがいちゃわんと湯を取った金盥かなだらいとバケツとが置いてある。これは初の日から極めてあるので、朝晩とも同じである。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
指揮さしずと働きを亭主が一所で、鉄瓶がゼロのあとで、水指みずさしが空になり、湯沸ゆわかし俯向うつむけになって、なお足らず。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
古伊賀こいが水指みずさし種壺たねつぼでさえあった。あの茶碗ちゃわんは朝鮮の飯鉢めしばちであった。上手じょうての華麗な美で、よく「渋さ」の域に達したものがあろうか。もとより雑器のみが工藝ではない。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そのころの道具がかりの者が知らなかったのかどうか、割れなくていいというような意味から、かね水指みずさし稽古けいこ用に出してくれたのが、数年のあとで名高い和蘭陀毛織オランダモウル抱桶だきおけであったことや
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その外馬遠ばえんの対幅が五百両、牧渓もっけいが一幀五百両なり。その他もこれに準ず。また茶器を買入るるものあり(銘は知らず)、茶盒ちゃごう千五百両、南蛮縄簾なわすだれ水指みずさし三百両、祥瑞しょうずい香盒こうごう二百両なり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
源氏物語の古い注釈書の一つである河海抄かゝいしょうに、昔、平中が或る女のもとへ行って泣く真似をしたが、うまい工合に涙が出ないので、あり合うすゞり水指みずさしをそっとふところに入れて眼のふちを濡らしたのを
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あの水指みずさしや花瓶も、もとはあるいは塩壺とかあるいは種壺とかであったのです。
民芸とは何か (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
卓子テイブルの上に両方からつないで下げた電燈の火屋ほや結目むすびめを解いたが、うずたか書籍しょじゃくを片手で掻退かいのけると、水指みずさしを取って、ひらりとその脊の高い体で、靴のまま卓子の上にあがって銅像のごとく突立つッたった。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お銀様は、水指みずさしを取るべく起きて寝衣ねまきを締め直しました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
枕許まくらもと水指みずさしと、硝子杯コップを伏せて盆がある。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)