母指おやゆび)” の例文
彼は母指おやゆびの爪を噛み——彼の一つの癖である——天井の方へ眼をやりながら、かなり長い間考えていた。それから夫人へ質問した。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
実の形が三味線の撥に似ているので、小児はこれを採って左の手の母指おやゆびの爪に当てて、三味線を弾くといって戯れ遊んだ。
三日月みかづきなりにってある、にいれたいくらいのちいさなつめを、母指おやゆび中指なかゆびさきつまんだまま、ほのかな月光げっこうすかした春重はるしげおもてには、得意とくいいろ明々ありありうかんで
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
とぷつりッと母指おやゆびで備前盛景の鯉口を切って馬足ばそくを詰めました。山三郎は驚く気色もなく
指環ゆびわの輝くやさしい白い手の隣りには馬蹄ひづめのように厚い母指おやゆびの爪がそびえている。あかだらけの綿めんネルシャツの袖口そでぐちは金ボタンのカフスとあい接した。乗換切符の要求、田舎ものの狼狽ろうばい
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
新子が出て行くと、夫人は左右の手の中指と母指おやゆびとを、タッキタッキと交互に鳴らしながら、姿見の前へ歩いて行って、自分の姿や顔をにこやかに眺めながら、香水を耳や喉につけて、心の中で
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
母指おやゆびとひとさし指でまるをこしらへて、一寸痛快らしく笑つた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
部屋の中は静かで、何時の間に舞込んで来たものか、母指おやゆびほどのが行燈の周囲まわりを飛巡り、時々紙へあたる音が、音といえば音であった。総司は、まだ顔を上げなかった。
甲州鎮撫隊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一時ひとしきり夏のさかりには影をかくした蝶が再びひら/\ととびめぐる。蟷螂かまきり母指おやゆびほどの大きさになり、人の跫音をきゝつけ、逃るどころか、却て刃向ふやうな姿勢を取るのも、この時節である。
虫の声 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
母指おやゆびと人差指で支えて、そうして左右上下に喫うことによって意味が違い
雑草一束 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それに反して母指おやゆびの内側、人差し指の内側へかけて、一面にタコが出来ている。これ竹刀しないを永く使い、剣の道にいそしんだ証拠だ。……が、まずそれはよいとして、ここに不思議なタコがある。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今、丑松の母指おやゆびが、引き金をゆるゆると締め出した。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ヒョイと母指おやゆびを出して見せた。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)