死目しにめ)” の例文
そのために雀だけは親の死目しにめにあってよろこばれ、啄木鳥はとうとう間にあわなかったので、今でも飛白の好い着物は着ているが
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼は親の死目しにめにさえ会わなかった。こんな書付が自分の眼に触れないで、長い間兄の手元に保管されていたのも、別段の不思議ではなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は彼女の死目しにめに會はなかつた。娘達は孰れもゐなかつた。二人は翌朝私の許に何も彼も終つたことを告げに來た。そのときにはもう彼女は入棺されてゐた。
あの野郎が後で死目しにめに会わなかったと愚痴でも出ちゃアならねえと思いまして、虫が知らせたのか急に会いたくなりましたから、お忙がしい処とは存じながら
「それではわたしが困ってしまいます、もし連合いにでも亡くなられてしまったら、わたしは死目しにめに会えないじゃございませんか、助けると思ってお通し下さいまし」
あとで起きあがった蛾次郎、親の死目しにめに会わなかったより悲しいのか、両手を顔にあてて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは隣に腰をかけた、血色の好い田舎娘の肩を肩に感じながら、母の死目しにめに会うよりは、むしろ死んだ後に行った方が、悲しみが少いかも知れないなどと思いふけっている彼だった。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
よろこび心の中には此位このくらゐなら節季せつき師走しはすの中を來らず共能にと思ひけるゆゑ兄さん御前は夫でよからうが私は道々も明暮あけくれお前の事のみあんじられて斯して態々わざ/\くるからはせめては死目しにめ逢度あひたしと思ひて何なにか苦勞くらう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
親の死目しにめわなくてもいいから、これだけは是非見物するがいい。世界広しといえどもこんな奇観きかんはまたとあるまい。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
照「おやまアうかえ、心得違いとは云いながら親の死目しにめにも逢われないのはみんな不孝のばちだね……私もうちを出る時には身重だったが、翌年正月生れたんだよ」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
燕・啄木鳥または魚狗はおしゃれだから、色とりどりの着物や帯を出して、どれにしようかなどと考えているうちに、おくれてしまって親の死目しにめに会えなかった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
急ぎたれ共名におふ四國の丸龜より上州大間々迄の道程みちのり百九十餘里の所なれば如何に急ぐとも道中に隙取ひまどりしかば其中に養父五左衞門は病死なし最早もはや門弟中もんていちうの世話にてとぶらひも出せしあとへ半四郎着しける故師父の死目しにめあはざるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
い「はい、いさでござります、どうぞ開けて、死目しにめに一度逢わせてください」
私によんどころない用事があって、此方こちらへ参って居る留守中に師匠が亡なりまして、皆さん方が態々わざ/\知らして下すって有難うございます、生憎あいにく死目しにめに逢いませんで、貴方がたも誠におこまりでございましょう
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)