森然しん)” の例文
鬼王丸が喝破かっぱしたので森然しんと一座は静まったが、宙を舞っている盃は尚グルグルと渦巻きながら、人々の頭上を渡っていたが、突然
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
白く谷川がさらさらとながれている。その辺は一面に小石や、砂利で、森然しんとして山に生い茂った木立が四境あたりを深くとざしている。
捕われ人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ねぐらりない喧嘩けんくわなら、銀杏いてふはうへ、いくらかわかれたらささうなものだ。——うだ、ぽぷらのばかりでさわぐ。……銀杏いてふ星空ほしぞら森然しんとしてた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
風も吹かずそよぎもせず、外も内も森然しんとした状態たたずまい! 響くものは悲しみの歌ばかり、咽び泣く銀の竪琴の音ばかり、ただ音ばかりでござりました。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
四辺あたり森然しんと静でした。すると一つの室の中から、如何にも嬉しそうな男女の声が聞えて来たではありませんか。
人間製造 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
家中みんな寝静まったと見えて四辺は森然しんと静まり返えり時々遠い沙漠の方から豹の吠え声が聞えるだけです。
曲輪を抜けほりを飛び越え、若い一人の侍が、森然しんと更けた町々を流星のように駈け抜けた時、折悪く道で邂逅いきあった人はどんなに驚いたか知れなかったであろう。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
間もなく水狐族の部落へ来たが、以前このまえ来た時と変わりなく家々は森然しんと寝静まり、犬の声さえ聞こえない。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その後は森然しんと物寂しく、何んの音も聞えない。ただ月明に梅花ばかりが白く匂っているばかりである。
高島異誌 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
森然しん四辺あたりは物寂しくもちろん燈火ともしびの影さえもない。三人はしばらくたたずんだまま余りの不思議さに言葉も出ない。彼ら三人は三人ながらこの辺の地理には慣れている。
日置流系図 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
後は森然しんと静かであった。弥右衛門はじっと耳を澄まして中庭の様子を聞こうとしたが何の物音も聞こえない。そのうち次第に眠くなった。これは毎晩のことである。
日置流系図 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
慇懃な声が消えると一緒に、闇中にほのかに浮いていた男の姿も全く消え、車内も森然しんと静まった。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
朝の光がキラキラと輝き秋草の乱れた庵室の庭を残るくまなくてらしていて四辺あたり森然しんと静かである。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
間髪を入れず息抜き気合い、エイ! という声がまた掛かった。と四番目の人物は、バッタリ大地へ膝をついた。この間わずかに一分であった。後は森然しんと静かであった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ひとしきり森然しんと静かになる。甚太郎は戸口へ近寄って行った。戸口と平行に位置を取りまた壁へピッタリ身を寄せた。その眼をきっと戸口へ注ぎ現われる敵を待ち構える。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
騒がしかった境内が一時に森然しんと静かになった。群集は左右に身を開いてその行列を迎え入れた。行列は粛々と歩いて行く。神殿の前で立ち止まる。ギーと神殿の戸が開く。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかし、すぐに、武士は、足から先に、紙帳の中へ引き込まれ、忽ち、断末魔の声が起こり、バーッと、血飛沫ちしぶきが、紙帳へかかる音がしたが、やがて、森然しんと静まってしまった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
後は森然しんと静かであった。釜で煮え立つ湯の音ばかりが、ただシンシンと聞こえている。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、泣叫ぶ声も響いて来たが、両方ながらぷつりと消えて、森然しんと復もや静になった。すると今度は正面の室から、女の笑う嬉しそうな声が「ホ、ホ、ホ、ホ、」と高く聞えて来た。
人間製造 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ここで老人の声が絶えて、四辺あたり森然しんと静かになった。が、すぐに老人の声がした。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
水はいかにも減じてはいるが、太古のままの夢をはらんで森然しんと静まり湛えている。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
間もなく彼と橇の影とは吹雪にまぎれて見えなくなった。森然しんと後は静かである。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
森然しん四辺あたりは静かである。月が雲間に隠れたと見えて木立も家も見分け難い。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
口笛が止むとあやなす声が、こう密々ひそひそと聞こえてきた。フッと蝋燭の火が消えた。しばらく森然しんと静かであった。と、暗い舞台の上へ蒼白い月光が流れ込んで来た。誰か表戸をあけたらしい。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ギ——と再び門の締まる陰気な音が響いたが森然しんとその後は静かになった。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
神秘に充ち充ちた有様と云うものは……空の光に迷うふくろの声、海の波間で閃めく夜光虫、遠い遠い沖の方から、何者とも知れぬ響がかすかに起こり、しばらくして鳴り止みますと、後は森然しんとしています。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
森然しんと更けた霊岸島の万崎河岸の向こう側で提灯の火が飛び乱れる。
三甚内 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
疲労つかれた声音で挨拶をしてちりぢりに四方へ散って行く。その後は森然しんと静まり返り夜業をすると見えてある工場の、二つの窓から火の光が戸外にカッと洩れて来るのさえかえって寂しく思われた。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
森然しんとふけた夜の町を、二人は並んで歩いて行った。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
森然しんと更けた夜の館、二人は凝然と突っ立っていた。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一座にわかに森然しんとなった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それから森然しんと静まった。
郷介法師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
家内は森然しんと静かである。
日置流系図 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一刹那座敷が森然しんとなる。
三甚内 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
後は森然しんと静かである。
赤格子九郎右衛門の娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)