棟上むねあ)” の例文
それでも飛騨ひだ白川しらかわのような辺鄙へんぴな土地では、たった一人の大工だいくがきて棟上むねあげまですむと、あとは村の人にまかせてかえったそうである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「そうだなあ、ついでの事に、この月の中旬なかばには、八幡宮のお棟上むねあげがあるそうだから、それを見物してから帰ろうではないか」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何時か庄吉も一度棟上むねあげに連れて行って貰ったことがあった。大留だいとめの下についてる大工達の外に多くの仕事師達もやって来た。
少年の死 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
三羽のとんびしきりいて舞っている空高く、何処どこからともなく勇ましい棟上むねあげの木遣きやりの声が聞えて来るのであった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「当り前じゃアありませんか。きょう棟上むねあげをしたばかりですもの。そんなにすぐ屋台骨がぐらついて耐るもんですか」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その天棚てんだな以前もと立派りつぱはしら丁度ちやうどちひさないへ棟上むねあげでもしたやうなかたちまれたのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
僧一 棟上むねあげの日のうれしかったこと。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
今度隣りに地所を買って建前たてまえを急ぎ、このたび落成らくせいしたので、壁一切を請負うけおった関係上、黒門町の壁辰も、二、三の弟子をれて、きょうの棟上むねあげに顔を出している。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
棟上むねあげをしたばかりの普請場ふしんばであった。屋根はきかけてあるが、壁もない、羽目板も打ってない。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
東京などの大工たちも、まえ棟上むねあげの日に酒肴さけさかなが出て、それをケンズイということはよくおぼえている。ただもうそれをまちがえて、ケズリという者が多くなっているだけである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
父の壁辰でさえ、筆屋幸兵衛方の棟上むねあげから帰って、茶のに待っているこの喬之助を一眼見た時
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
一つの供養塔を建立こんりゅうした奇特な長者が、一族の者や朝野の貴顕を招いて、その棟上むねあげの式を行い、それを見ようと集まった有縁うえんの人々やこの界隈かいわいに住む部落の貧民たちには
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとえば普請ふしん棟上むねあげの日に投げる餅、死人のあった時にぐに造って供える団子などは、その製法がすでに今風になっていても、なおこれをシトギと謂う土地が全国にわたって相応に多く
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
大きな建築を楽しんでいる大長者が棟上むねあげを見ているように、その眼元はなごんでいた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして大鳥居から由比ヶ浜のほうへ一条の大路がひらけ、また、町屋を縫って山内の方面へも新しい道路ができ上がって、きれいに砂がしきつめられ終った朝、棟上むねあげの式は厳かに執り行われた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)