書役かきやく)” の例文
下谷長者町に、筆屋幸兵衛という、筆紙商ふでかみしょう老舗しにせがある。千代田城のお書役かきやく御書院番部屋に筆紙墨類を入れている、名代の大店おおだなだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
広い玄関の上段には、役人の年寄としより用人ようにん書役かきやくなどが居並び、式台のそばには足軽あしがるが四人も控えた。村じゅうのものがそこへ呼び出された。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
聞いているうちに、同心と書役かきやくが来たので、千之助は二階へあがっていった。現場は端にある八じょうで、井田十兵衛が退屈そうにたばこをふかしていた。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
馬鹿をふな! お前は乃父おれのやうに旋盤細工ろくろざいく商業しやうばいにするか、それともうんくばおてら書役かきやくにでもなるのだ。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
奥まった所には別席を設けて、表向きの出座しゅつざではないが、城代が取り調べの模様をよそながら見に来ている。縁側には取り調べを命ぜられた与力が、書役かきやくを従えて着座する。
最後の一句 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
正面には山屋敷あずかりの与力、熊野牛王くまのごおうの神紙二十七枚を三方にのせて前へ置き、側には、机を控えて同心と書役かきやく、左の袖部屋にも三、四の下役がおそろしく緊張したていで折目を正している。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……添役人は十人もくっついているんですが、どれもこれも書役かきやくあがりの尻腰しっこしなし。……おや、たいへんとマゴマゴするばかり。……ようやくわれに返って門内へなだれこんだが、もうあとの祭。
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
当番所には同心一人いちにん書役かきやく一人が詰めておりまして
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
徒士目付かちめつけ三人、書役かきやく一人ひとり、歩兵斥候三人、おのおの一人ずつの小者を連れて集まって来ている。足軽あしがる小頭こがしら肝煎きもいりの率いる十九人の組もいる。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
父は弥兵衛、母はぬいといったが、二人ともすでにい。長兄の徹之助が家督を継いで、大目付の書役かきやくを勤めている。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
つくばい同心が左右にしゃがみこんで、正面の高い座の下には、書役かきやくが机をならべてこっちを見ていた。一同が、そこで草履ぞうりをぬいでお先へお先へと譲り合っていると
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そこには書役かきやくという形で新たにはいった亀屋栄吉かめやえいきちが早く出勤していて、小使いの男と二人ふたりでそこいらを片づけている。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
直衛は書役かきやくを三人にし、要屋の主人、番頭、手代ら一人ずつの口書を、分担して取るように命じた。
改訂御定法 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
千代田の殿中でんちゅうである。新御番詰所しんごばんつめしょと言って、書役かきやくの控えている大広間だ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
前庭の上段には、福島から来た役人の年寄、用人、書役かきやくなどが居並んで、そのわきには足軽が四人も控えた。それから村じゅうのものが呼び出された。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
十年一日のように、多吉は深川米問屋の帳付けとか、あるいは茶を海外に輸出する貿易商の書役かきやくとかに甘んじていて、町人の家に生まれながら全く物欲に執着を持たない。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と清助に言われるまでもなく、勝重はそこに古い机を控え、その日の書役かきやくを引き受けた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
中津川の医者で、半蔵のふるい師匠にあたる宮川寛斎みやがわかんさいも、この一行に加わって来た。もっとも、寛斎はただの横浜見物ではなく、やはり出稼でかせぎの一人ひとりとして——万屋安兵衛の書役かきやくという形で。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)