旅支度たびじたく)” の例文
とゞめの一刀を刺貫さしとほもろい奴だと重四郎は彼の荷物にもつ斷落きりおとしてうちより四五百兩の金子を奪ひ取つゝ其儘そのまゝ此所を悠然いう/\と立去りやが旅支度たびじたく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
乳癌にゅうがんかも知れないと云ったもんだから、すぐに自動車で東京に引返して、旅支度たびじたくのまんま当病院ここへ入院したって云うのよ
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
小文治は、家に取ってかえすと、しばらくあって、粗服そふくながら、たしなみのある旅支度たびじたくに、大小を差し、例の朱柄あかえやりをかついで、ふたたびでてきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は出獄の日を待受ける囚人のようにして、もう一度国の方に自分の子供等を見得るの日を待受けた。そろそろ遠い旅支度たびじたくをも心掛けねば成らなかった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ももの上にひじをのせて幾らか前屈まえかがみになった彼は、旅支度たびじたくの男の眼をのぞき込むようにした。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
とお粂が戸棚の隅々をあらためてみると、馬春堂の浴衣やら伊兵衛の衣類などがまるめてあって、笠や何かの旅支度たびじたくが、ちゃんと二人前だけっています。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
英吉利イギリス行の兵卒や旅客なぞの往きかう混雑の中で、岸本はすっかり旅支度たびじたくの出来た牧野を見た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
雇ふより年若としわかなれ共半四郎の方がたしかならんとて右五十兩の金に手紙を添てわたせしかば半四郎は是を請取て懷中くわいちうし急用なればたゞち旅支度たびじたくして出立しゆつたつせんとするを見て親半右衞門兄半作ともに是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
九刻ここのつころ、御旅おたび汐見松しおみまつの下で落会っておくんなさいな。——私も、旅支度たびじたくをして行きますから」
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
改めくれよと云れて亭主若い者一同立懸たちかゝり半四郎の夜着よぎまくり見れば甲懸かふがけ脚絆きやはんまで穿はき旅支度たびじたくをなし居けるゆゑ能々よく/\是を見て大いに驚き此盜人は御客樣貴方の御連なりといふに半四郎も能々よく/\顏を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
旅支度たびじたく調ととのうまでは諸方への通知も出さずに置いた。彼が横浜から出る船には乗らないで、わざわざ神戸まで行くことにしたのも、独りでこっそりと母国に別れを告げて行くつもりであったからで。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)