推量おしはか)” の例文
今でもかなりに高い、薄暗いような坂路であるから、昔はさこそと推量おしはかられて、狸坂くらやみ坂の名も偶然でないことを思わせた。
十番雑記 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ぶっきら棒な答えでしかなかったが、彼ら凡下ぼんげ推量おしはかりで、殿を軽んじるようではならぬと考え直したか、また自分からこう語り初める——
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今でこそ謹厳方直な道学先生となって門下に煙がられている坪内つぼうち博士も、春廼舎朧はるのやおぼろ時代にはやはりこの気分が濃厚であったのは雅号でも推量おしはかられよう。
思余って天上で、せめてこの声きこえよと、下界の唄をお唄いの、母君の心を推量おしはかって、多勢の上﨟たちも、妙なる声をお合せある——唄はその時聞えましょう。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見送りて御兩親とも御無事にとたがひにあと言葉ことばなくわかるゝ親子が心のうち推量おしはかられてあはれなり因て世話人利兵衞も深切者しんせつものゆゑ世話料せわれう判代等はんだいとう一錢も取ず實意じつい周旋しうせんに及びけるとなり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
忠実な朴訥な老いたしもべは、女主人の心を推量おしはかり、忍びやかに自分も泣き出したのである。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
鎌倉の覇業を永久に維持するおおいなる目的の前には、あるに甲斐かいなき我子を捨殺しにしたものの、さすがに子は可愛いものであったろうと推量おしはかると
秋の修善寺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
小波は小皺こじわの寄った今日でも秀麗閑雅をしのばせる美男だから、少年時代はさこそと推量おしはかられるので
この名望家の令嬢で、この先生の令閨れいけいで、その上音楽の名手と謂えば風采のほども推量おしはかられる、次のへや葭戸よしど彼方かなた薔薇ばらかおりほのかにして、時めく気勢けはいはそれであろう。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とくと聞かれて嘉川家の一件あらかじめ推量おしはかられ右島と申す女の殺されし事は正月廿五日すぎの事と思はるゝにより當二月二日寺社じしや奉行黒田豐前守ぶぜんのかみより兩奉行所へ掛合かけあひありしせつの帳面を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
私如き不肖ふしょうの者には推量おしはかることさえ出来ぬほどの大計略をお胸の中に絶えず蔵されておいでのはずゆえ、その父上のされた所業の善悪是非の批評など、どうして私に出来ましょうや。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかし昨夜の様子から推量おしはかると、友達の附き合いとして酒を飲むことのほかに、何かの意味があるらしくも思われた。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
立向う山のしげりから、額を出して、ト差覗さしのぞさまなる雲の峰の、いかにそのすその広く且つ大なるべきかを想うにつけて、全体を鵜呑うのみにしている谷の深さ、山の高さが推量おしはかられる。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小次郎に添いたいと祈願しながら、姉の心を推量おしはかって、今に望みをとげない浮藻。桂子には恩と義理とを感じ、浮藻には可憐さを覚えながら、どっちへも行けずにすくんでいる小次郎。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)