もが)” の例文
あッと抜くと、右の方がざくりと潜る。わあともがきに掙く、檜木笠ひのきがさを、高浪が横なぐりになぐりつけて、ヒイと引く息に潮を浴びせた。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
容体がさも、ものありげで、鶴の一声というおもむきもがき騒いで呼立てない、非凡の見識おのずからあらわれて、うちの面白さが思遣おもいやられる。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
押えられて、手を突込つっこんだから、脚をばったのように、いや、ずんぐりだから、蟋蟀こおろぎのようにもがいて、頭でうすいていた。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
綾子はまた膝を折りて端坐しつ、潸然さんぜんと泣出だしぬ、たちまちきゃっと絶叫して、転げ廻りつくるしもが
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
買いたるは手品師にて、観世物みせものはりつけにするなりき。身体からだは利かでもし、やりにて突く時、手と足もがきて、と苦痛の声絞らするまでなれば。これにぞ銀六の泣きしなる。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うなって、足をばたばたともがさまを、苦笑いで、めつけながら、手繰って手元へドン、と引くと、たこかと見えて面くらう、自分よりは上背も幅もあるのを、糸目を取って絞った形。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ずきりずきりと脈を打っちゃあ血がくのがきもにこたえるってもがいてね、真蒼まっさおです。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何も聞かないふりをして、かわずが手をもがくがごとく、指でさぐりながら、松の枝に提灯を釣すと、謙斎が饒舌しゃべった約束のごとく、そのまま、しょぼんと、根にかがんで、つくばいだちの膝の上へ
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
またどうも呻吟うめくのが、魘されるのとは様子が違って、くるしもがくといった調子だ……さ、その同一おなじ苦み掙くというにも、種々いろいろありますが、訳は分らず、しかもその苦悩くるしみが容易じゃない。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もがいてほどくと、道の上へ、お夏の胸は弓なりにったが、梅岡に支えられた。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのまま等閑なおざりにすべき義理ではないのに、主人にも、女にも、あのうすものつぐないをする用意なしには、忍んでも逢ってはならないと思うのに、あせってもがいても、半月や一月でその金子かねは出来なかった。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
細く白き手をもがきて、その一条を掻掴かいつかみ、アと云いさま投げ棄てつ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と急所を取って突廻せば、鉄蔵は虫の呼吸いき、「あねえ、御免ねえ、、放してくんねえてば、苦しい、むむ。」と苦みもがくを煙管の乱打、「死ぬる死ぬる。」とうめき叫ぶを殺しかねざる気色なり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)