捷径しょうけい)” の例文
旧字:捷徑
これに反して鰐博士は、むしろ子宮や乳房ちぶさの自然退化を促進する方を捷径しょうけいと見て、既に三十年をその研究についやして来た権威者である。
わが心の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
それにはもう少し誰にも分かりやすい言葉で誰の頭にもぴんと響くようなものを捕えて来るのが捷径しょうけいではないかという気がしますが如何でしょうか。
御返事(石原純君へ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
とっさに弁ずる手際てぎわがないために、やむをえず省略の捷径しょうけいてて、几帳面きちょうめん塗抹とまつ主義を根気に実行したとすれば、拙の一字はどうしてもまぬかれがたい。
子規の画 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
要するに迷庵も抽斎も、道に至るには考証にって至るより外ないと信じたのである。もとよりこれは捷径しょうけいではない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
防備の陣を張るにも先立つものは矢張金である。金を獲るには僕の身としては書くのが一番の捷径しょうけいであろう。
申訳 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
金博士をくどくには、いつの時代にあっても燻製料理によるのが捷径しょうけいだという鉄則を、ルス嬢もはずさない。
自然に化して俗を離るるの捷径しょうけいありや、こたえていわく、詩を語るべし、子もとより詩をよくす、他に求むべからず、波疑敢問はうたがってあえてとう、それ詩と俳諧といささかそのを異にす
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
我らは発句を習熟することが文章上達の捷径しょうけいなりと知り、その後やや心をとめて翫味がんみするようになった。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
彼は世渡りの道に裏と表の二条ふたすじあるを見ぬきて、いかなる場合にも捷径しょうけいをとりて進まんことを誓いぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
本統は自然の秘密に近づく一番の捷径しょうけいであり、その秘密を探って初めて自然を克服し得るのであるから、けっきょくそれは実用の見地から見ても早道である場合が多い。
二つの序文 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「日本人が、自分自身で、舞か、囃子をやって見るのが一番捷径しょうけい」と固く信じている者である。
能とは何か (新字新仮名) / 夢野久作(著)
左手ゆんでに柄を握り持ち、右手めてをしのぎへそっとあて、左脇へかい込んだ。敵の心臓を真一文字、駆け入って突かん決心である。太刀は持っても無刀の精神、当流での「捷径しょうけい」である。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかしながら神を棄て神を否定する時人生は全然無意味となるを如何いかん。神を棄てて問題の解決を計るはもっとも捷径しょうけいである。けれどもこれ人生を無意味とするの結果に帰着するのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
春艸路三叉中しゅんそうのみちさんさなか捷径しょうけいあり我を迎ふ
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
その理由いかにと尋ぬるに初学入門の捷径しょうけいはこれに限るよと降参人と見てとっていやに軽蔑けいべつした文句を並べる
自転車日記 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
とにかく、これに関してはやはり『野鳥』の読者の中に知識を求めるのが一番の捷径しょうけいであろうと思われるので厚顔あつかましくも本誌の余白をけがした次第である。(昭和十年二月『野鳥』)
鴉と唱歌 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
自然に化して俗を離るるの捷径しょうけいありや、こたえて曰く、詩を語るべし、子もとより詩をくす、他に求むべからず、疑ってえて問う、それ詩と俳諧といささかそのを異にす
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
彼の如き死を慕える者においてはこれ最上の、かつもっとも捷径しょうけいの問題解決法ではないか。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
サウジーいわく「一人の邪魔者の常に我身に附きまとうあり、その名を称して正直せいちょくという」と、永久の富は正直によらざるべからずといえども正直は富に導くの捷径しょうけいにはあらざるなり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
次のすいた電車に乗るような方針をとるのが捷径しょうけいである。
電車の混雑について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)