扨置さてお)” の例文
都会の地には洋学とうものは百年も前からありながら、中津は田舎の事であるから、原書は扨置さておき、横文字を見たことがなかった。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
たきくつがへすやうで小留をやみもなくうちながらみんな蓑笠みのかさしのいだくらゐ茅葺かやぶきつくろひをすることは扨置さておいて、おもてもあけられず、うちからうち隣同士となりどうし
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
冗談は扨置さておき、新らしい領主の氏郷が出陣すると、これを見て会津の町人百姓は氏郷を気の毒がって涙をこぼしたという。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
唯私にひかされたのだ。私とてもポチを手放し得なかったのは、あながちポチを愛したからではない。愛する愛さんは扨置さておいて、私は唯可哀かわいそうだったのだ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
が、馬越は友達は扨置さておき、母にさへ妻にさへ、へりくだつてゐなければならぬ腑甲斐ふがひなさを悲んでゐた。——この二人も知らず識らず自分を内海に比べてゐるらしかつた。
仮面 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
文「まア何は扨置さておき、明暮あけくれ其方そちのことを案じぬ日とてはなかった、く達者でいてくれた、人も通わぬ無人島、再び其方に逢うというのはんな嬉しいことはない」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
珍重がられることもずいぶんあるようじゃ、このごろ、少しばかり火薬の製造機械を調べているけれど、思うように感心ができぬ、何を扨置さておいても洋行したい心が募って、じっとしてはおれぬ
殊に西洋戸前とまえある押入の中に堅く閉籠りし事なれば其戸を開く迄物音充分聞えずして目を覚さずに居たる者なりそれ扨置さておき妾は施寧が躍出るを見てころがる如くに二階を降しが、金起は流石に男だけ
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
その家は日本国中蘭学医の総本山とでも名をけてよろしい名家であるから、江戸は扨置さておき日本国中、蘭学社会の人で桂川と云う名前を知らない者はない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
のことは扨置さておき、まず天守台の提灯から御詮議あって然るべく存じ申す
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
出立しゅったつのときわかれを惜しみ無事を祈ってれる者は母と姉とばかり、知人朋友、見送みおくり扨置さておき見向く者もなし、逃げるようにして船に乗りましたが、兄の死後
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
内に妾を飼い外に賤業婦をもてあそぶのみか、此男は某地方出身の者にて、郷里に正当の妻を遺し、東京に来りて更らに第二の妻と結婚して、所謂一妻一妾は扨置さておき、二妻数妾の滅茶苦茶なれば
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)