手離てばな)” の例文
手離てばなす気がしないのだけれど、外にお贈りするものがないのですから、私の命から二番目に大切なこれを、あなたに御預けしますわ。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これはわたくし大事だいじしなでございまして、当時いま零落おちぶれまして、を高くはうといふ人がございますけれども、なか/\手離てばなしませぬで……。
どうせお園を手離てばなすなら、何の誰それと人にも言えるお武士さむらいの許へ嫁にやろうとなって、伊豆伍は、西丸御書院番頭の脇坂山城守の屋敷へ出入りしているのを幸い
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
これだけは手離てばなすまいと思っていた一代のかたみの着物を質に入れて来たのだ。質屋の暖簾のれんをくぐって出た時は、もう寺田は一代の想いを殺してしまった気持だった。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
巡査じゆんさ此處こゝはじめ新聞しんぶん手離てばなした。自分じぶんはホツと呼吸いきをしてわれかへつた。義母おつかさんはウンともスンともはれない。べつわれかへ必要ひつえうもなくかへるべきわれもつられない
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「このぶんならだいじょうぶだ。せいして、よくしてやろう。もう、これからは、けっして、どんなことがあっても手離てばなすものでない。」と、かたこころおもいながら、てたり
花と人間の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)