手函てばこ)” の例文
小説を書くということも一つの願望で、庸三は手函てばこに一杯ある書き散らしの原稿を見せられたこともあった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
竹渓は家にとどまり、座右の手函てばこおさめた詩草を取出してこれを改刪かいさんしやや意に満ちたものおよそ一百首をえらみ、書斎の床の間に壇を設けて陶淵明とうえんめいの集と、自選の詩とを祭った。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
折々をり/\そら瑠璃色るりいろは、玲瓏れいろうたるかげりて、玉章たまづさ手函てばこうち櫛笥くしげおく紅猪口べにちよこそこにも宿やどる。龍膽りんだういろさわやかならん。黄菊きぎく白菊しらぎく咲出さきいでぬ。可懷なつかしきは嫁菜よめなはなまがきほそ姿すがたぞかし。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それから彼は一つの手函てばこを持ち出した。それは方一尺あるかない小さなきりの白木で出来てゐて、厭に威嚇するやうな銀色の大きい錠が下りてゐる。彼はそれをぽん/\とたゝいて見せて
手品師 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
お帽子お外套というもきまりの悪いしろものがぼたんで棚へ入って、「お目金、」と四度半が手近な手函てばこすわる、歯科のほかでは知らなかった、椅子がぜんまいでギギイと巻上る……といったいきおい
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、手函てばこ金子かねを授けました。今もって叔母が貢いでくれるんです。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)