我武者がむしゃ)” の例文
この切支丹キリシタン文化の花園に教育された小ましゃくれた美少年を見ながら、その親の伊東義益という男の、我武者がむしゃ髯面ひげづらを聯想したからである。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
事務長は思わず身を退いて両手を伸ばして走りよる葉子をせき止めようとしたが、葉子はわれにもなく我武者がむしゃにすり入って、男の胸に顔を伏せた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
お心では憤りに燃えていらっしゃるにもかかわらず、この我武者がむしゃらな、気狂いのように熱愛する弟様の暴力に一種の魅力をさえ感じたと仰しゃいました。
蛇性の執念 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
それを引分ひきわけうとて拔劍きましたる途端とたんに、のチッバルトの我武者がむしゃめがけんいて駈付かけつけ、鬪戰たゝかひいどみ、白刃しらは揮𢌞ふりまはし、いたづらに虚空こくうをばりまするほど
贈太政大臣信長の婿たる此の忠三郎がよし無き田舎武士いなかざむらい我武者がむしゃ共をも、事と品によりては相手にせねばならぬ、おもしろからぬ運命はめに立至ったが忌々いまいましい、と胸中のうつをしめやかにらした。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「さあ、お浪人、相手が変ったぜ。弁天さまのような女形おやまのかわりに我武者がむしゃらな、三下じゃあ、変りばえがしねえだろうが、たのむぜ。その斬れ味のよさそうなやつの、始末を早くつけたらどうだ?」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
我武者がむしゃらを仰有っても通りませんよ」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「長いあいだ、わがままを申しました。かくのごとき末路まつろへお誘いいたしたのも、私のせいだったかもしれません。血気、やむにやまれぬ我武者がむしゃの私の」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ベンヺ 我武者がむしゃのチッバルトめがまたをった。
「いやいや、うかつに首は斬られない。貴さまのような我武者がむしゃは、首だけになっても、飛びついて来るおそれがあるからな。……まあ、月でも見ようか」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
合戦はまず、やたらに目先の功をきそ我武者がむしゃな前線の気負い者から口火が切られた。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神馬小屋しんめごやびこんで、馬のおしりにかくれるもの、さては韋駄天いだてんげちる者など——いまが今までの散華舞踊さんげぶようは、一しゅんのまにこの我武者がむしゃのろうぜきで荒涼こうりょうたるありさまとしてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、そこには我武者がむしゃにかけとばしても、たちまちまた一つの難関なんかんがあった。なんのさわというか知らないが、おそろしくきゅう傾斜けいしゃで、その下にははばのひろい渓流けいりゅうがまッ白なあわをたてて流れている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)