憐愍れんみん)” の例文
千の苦艱くげんもとよりしたるを、なかなかかかるゆたかなる信用と、かかるあたたか憐愍れんみんとをかうむらんは、羝羊ていようを得んとよりも彼は望まざりしなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
天皇憐愍れんみんして使を遣して犯状の軽重を覆審ふくしんせしむ。是に於きて、恩をくだしてことごとくに死罪已下いげゆるし、並に衣服を賜ひ、其れを自ら新にせ令む。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
初さんがこれほど叮嚀ていねいな言葉を使おうとは思いも寄らなかった。おおかた神妙しんびょうに下りましょうと出たんで、幾分いくぶん憐愍れんみんの念を起したんだろう。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
も見出さずお菊が仕業なりと申立公儀かみへ御苦勞を懸し段麁忽不義の致し方に付重き御とがめにも申付べきの處格別の御憐愍れんみん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
でも事に依りましたら、御都合でといふやうなわけですね。憐愍れんみんといふ詞は、知れ切つてゐるから口外しないのですが。
無際の憐愍れんみんと同情とを以て、陛下の赤子に対し公明にして周到なる審判を為すことを理想として居る人人である。
公判 (新字旧仮名) / 平出修(著)
奇絶なる鼻の持主は、乞丐きっかいの徒には相違なきも、あながち人の憐愍れんみんを乞わず、かつて米銭の恵与を強いしことなし。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
故郷に棄てて來た妻や子に對するよりも、より深重な罪惡感を千登世に感じないわけには行かない。さう思ふと何處からともなく込み上げて來る強い憐愍れんみんがひとしきり續く。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
そして見ると、自分の周囲まわりには何処かに悲惨ひさんの影が取巻ていて、人の憐愍れんみんを自然にくのかも知れない。自分の性質には何処かに人なつこいところがあって、おのずと人の親愛を受けるのかもしれない。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
うばひ取られし事他聞たぶんも宜しからず當家の恥辱ちじよくなりとて改易かいえき申付られ尤も憐愍れんみんを以て家財は家内へ與へられたれば通仙が後家ごけお竹并びに娘お高はやしき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
今は呵責をも苦艱くげんをもあへにくまざるべき覚悟の貫一は、この信用のつひには慾の為にがれ、この憐愍れんみんも利の為にをしまるる時の目前なるべきを固く信じたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
この述懐を聞いた松本は何とも云わず、ただ苦笑にがわらいをしていた。それが敬太郎には軽蔑けいべつの意味にも憐愍れんみんの意味にも取れるので、彼はいずれにしてもはなはだ肩身の狭い思をした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
見請候はゞ其せつ道十郎身分にもかゝはり候事故早速さつそくにも申立べくの處其儀無く打過うちすぎ候段不埓に付屹度申付べきの處此度證人に相立其方が申立によつ事實じじつ明白めいはく行屆ゆきとゞき候儀も有之に付格別の御憐愍れんみん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)