惣領そうりょう)” の例文
そのうちで彼の最も可愛かあいがっていた惣領そうりょうの娘が、年頃になる少し前から悪性の肺結核にかかったので、彼はその娘を救うために、あらゆる手段を講じた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先代信秀が、信長のために、傅役もりやくとしておいた老臣の平手中務には、三人の男子があった。惣領そうりょうが五郎左衛門、次男が監物けんもつ、三男を甚左衛門といった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
惣領そうりょうせがれも来年は大学にはいるはずです。わたしは人の世話をしたからとてその人から礼を言われたいなぞとそんな卑劣な考えは微塵みじんも持ってはいません。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この事実は直接に惣領そうりょう職の衰微であった。何となれば荒野を開く権利は惣領に属していたからである。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
往来から岡の方へ余程上って、小高い所にあるから一寸ちょっと見ても涼しそうな家さ、おれがいくとお町は二つの小牛を庭の柿の木のかげつないで、十になる惣領そうりょうを相手に
姪子 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
七年前に死んだ惣領そうりょうの息子が今まで達者でいたらとは、母が明け暮れに繰り返す愚痴であった。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
なかでいちばんす早いやつでも、ききんの惣領そうりょう息子が丁年になったような顔をしています。
わけて言っているのに、お前まだわからないのかい。きょう一は何と言っても惣領そうりょうなんだからね。どうせあの子を、そういつまでも、お前の家に預けとくわけにはいかないじゃないか。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
親から仕来しきたった百姓は百姓として、惣領そうりょうにはまだ家の仕事を継ぐ特権もある。次男三男からはそれも望めなかった。十三、四のころから草刈り奉公に出て、末は雲助くもすけにでもなるか。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
くぐって出たそうで、ほんの少し火傷やけどを負いました。——娘のお町は、危うく焼け死ぬところを、お隣の家主の太七たしちさんところの惣領そうりょう——周助さんに、煙の中から助け出して頂きました
のちに仙台侯の御抱おかゝえになりました黒坂一齋くろさかいっさいと云う先生の処に、内弟子に参って惣領そうりょう新五郎しんごろうと云う者をうちへ呼寄せて、病人の撫擦なでさすりをさせたり、あるいは薬其のほかの手当もさせまする。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「それもカウントに入るよ。吉川君は惣領そうりょうだからね。七分三分かな、これは」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
一家惣領そうりょうの末であった小山小四郎が田原藤太相伝のを奉りしより其れに改めた三左靹絵ひだりどもえの紋の旗を吹靡ふきなびかせ、凜々りんりんたる意気、堂々たる威風、はだえたゆまず、目まじろがず、佐沼の城を心当に進み行く
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
で、この惣領そうりょうの教養には、欠くところないつもりだが、ただ、なにぶん東国の一平野に育ったままではと、それのみは彼の母すら不満としていたからだった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれどもそのは珍らしく、坂井の主人は四十恰好かっこうひげのない人であると云う事やら、ピヤノを弾くのは惣領そうりょうの娘で十二三になると云う事やら、またほかのうちの小供が遊びに来ても
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鶴子の家にはその時既に両親がなく、惣領そうりょうの兄が実業界では相応に名を知られていたところから、衣食に窮しないだけの資産を鶴子に与えて生涯実家や親類の家へ出入する事を禁じた。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それに夏休みに遊びに行けば多大のお世話になる大伯父さんの惣領そうりょうだ。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
惣領そうりょうの林太郎様、二十三になる良い息子だが、ブラブラ病いでお引籠りと言うのは世間体の表向きで、その実、お腰元のお組という十九になる綺麗なのとちょうど一と月前の先月の十三日の晩に手に手を
と十歳になる惣領そうりょう息子が尋ねた時、日頃貞淑な夫人が
或良人の惨敗 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
惣領そうりょうたけのこびや衣更ころもがえ——浩郎こうろう
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)