悪阻つわり)” の例文
旧字:惡阻
彼女は悪阻つわりで死んだ健三の兄の細君の事を思い出した。そうして自分が長女を生む時に同じ病で苦しんだ昔と照し合せて見たりした。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その新女御を院が御寵愛ちょうあいあそばすことは月日とともに深くなった。七月からは妊娠をした。悪阻つわりに悩んでいる新女御の姿もまた美しい。
源氏物語:46 竹河 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そうだとすれば悪阻つわりを隠していた時期もあっただろうに、そんなことをも見過していたのはあたし等の迂濶うかつと云うべきであろうか。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
トシエは、家へ来た翌日から悪阻つわりで苦るしんだ。蛙が、夜がな夜ッぴて水田でやかましく鳴き騒いでいた。夏が近づいていた。
浮動する地価 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
我邦でも昔から壁土や土器かわらけをかじる子供があるが、他人種でもやはり胃病やヒステリーあるいは悪阻つわりのために土を食いたがる者が往々あるそうである。
話の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
悪阻つわりの軽かったかれは、ほとんど臨月の姙婦とは見えないほどにすこやかであった。その顔色も艶々つやつやしかった。
経帷子の秘密 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
葉子はふと定子を懐妊していた時のはげしい悪阻つわりの苦痛を思い出した。それはおりから痛ましい回想だった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
おしげはおしづの下を身籠ったが、悪阻つわりの時期に悪性の感冒にかかって、それがもとで死んだ。
日日の麺麭 (新字新仮名) / 小山清(著)
今度は悪阻つわりも殊の他に強い。私は医者に行くことを進める。とく子は頑として聞き入れない。
澪標 (新字新仮名) / 外村繁(著)
住居へ帰り、着替えをするとき、家扶かふの吉川甚左衛門が、妻のふじが寝ていることを告げた。いまは悪阻つわりがいちばんつよい時期らしいから、劬ってあげるようにとも云った。
醜聞 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
二月ふたつき見る物を見ないというのも、母の病気や死亡の感動のせいかも知れないし、悪阻つわりだってないんだし……と俺は思ったが、悪阻がないことだってある、と彼女は云っていた。
神棚 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
妊娠が進むにつれて悪阻つわりを起して来ました。そればかりでなく段々気が荒くなってまいりました。そして敏感になったその心はいつの間にか私と鬼頭さんとの間を感付いてしまいました。
呪われの家 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
エリスは二、三日前の夜、舞台にて卒倒しつとて、人にたすけられて帰りしが、それより心地ここちあしとて休み、もの食うごとに吐くを、悪阻つわりというものならんと始めて心づきしは母なりき。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
小夜子は悪阻つわりのあとの衰弱がひどかったので、暫時しばらく箱根の別荘に静養していたその留守の間に、花は暇をとって帰ってしまった、どういう理由で帰ったのか、別に詮議立てもしなかったので
美人鷹匠 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
悪阻つわりなどのために、夏中ややもするとお島は店へも顔を出さず、二階に床を敷いて、一日寝て暮すような日が多かったが、気分の好い時でも、その日その日の売揚うりあげの勘定をしたり、店のものと一緒に
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私通した小娘こむすめの青い悪阻つわりの秘密と恐怖とにふりそそぐ雨。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
少しおなかがふっくりとなって悪阻つわりの悩みに顔の少しおせになった宮のお美しさは、前よりも増したのではないかと見えた。
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
病症が悪阻つわりだから大丈夫という安心もあるらしく見えたが、容体ようだいが険悪になって後も、彼は依然としてその態度を改める様子がなかったので、人はそれを気に入らないつまに対する仕打とも解釈した。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「妊娠した女の悪阻つわりと考えます」
呪われの家 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
悪阻つわりのような気がします。」
幻の彼方 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
宮が可憐かれんな姿で悪阻つわりに悩んでおいでになるのが院のお目に浮かんで、心苦しく哀れにお思われになった。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
ただ悪阻つわりに悩む人の若い可憐かれんな姿に愛を覚えておいでになった。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)