悄気しよげ)” の例文
旧字:悄氣
僕の反問にあふと、見るも気の毒なほど悄気しよげ返つたのですね。然しやがて語りはじめたのです。私も実は三十五歳になるのです。
そのうち女房かみさんが芝居の八百蔵やほざうが大の贔屓ひいきだつたが、その頃不入続きで悄気しよげてゐると、狸は「八百蔵おほへいこ」と書いて済ましてゐたさうだ。
栗原は悄気しよげてゐた。彼は逢ふたびに元気がなく、憔悴せうすゐして行くやうだ。おちつきもなく何かに脅えた臆病な眼色をしてぼそぼそとものを云ふ。
現代詩 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
彼はそんなことで悄気しよげるやうな性質でもなかつたので、ほんの路傍の挨拶だけで別れると、さつさと上手に歩いて行つた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
う、はしを伏せ、はねをすぼめ、あとじさりに、目を据ゑつゝ、あはれに悄気しよげて、ホ、と寂しく、ホと弱く、ポポーと真昼の夢にうなされたやうに鳴く。
玉川の草 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
併し私は矢つ張り、女の人に相手を申し込む時、鳥渡でもいやな顔をされると、すつかり悄気しよげて了ふのが常だつた。
私の社交ダンス (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
それだのに何としたか意久地なしの霊魂たましひがまたトスカ的に滅入めいり込む、気が悄気しよげる。ポロポロと涙がこぼれる。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
『それがさ。』老人は急に悄気しよげた顔付をして若い教師を見た。それから其の眼を雀部の髯面に移した。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
予の船が出帆した時の心持ちは本当に『坊つちやん』の遺蹟に袂別するやうな気がして甲板の上で悄気しよげてた。切りに自分で苦笑して見るが気持ちは矢つ張り消せなんだ。
坊つちやん「遺蹟めぐり」 (新字旧仮名) / 岡本一平(著)
「兎に角、ヒドく悄気しよげてゐたことは、事実なんだ。誰かに、失恋したのかも知れない。が、彼奴の事だから誰にも打ち明けないし、相手の見当は、サツパリ付かないね。」
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
「あのキユウピツドは悄気しよげてゐますね。舞台監督にでも叱られたやうですね。」
野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
三輪 どうしたい、そんなに悄気しよげちや、駄目だよ。
屋上庭園 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
厭に悄気しよげてゐるンだね。元気を
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
『いやに悄気しよげてるね?』
島からの帰途 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
その翌日私のところへ牧野さんから電話がきて、すぐ遊びに来てくれないかと言ふので駆けつけると、彼はひどく悄気しよげてゐた。
牧野さんの死 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
ある朝の事、軍曹は洋袴ヅボンの隠しに両手をし込んだ儘、妙に悄気しよげた顔をして入つて来た。それを見た俘虜の一にんが訊いた。
草が戦ぐ、また意久地なしの霊魂たましひが滅入つて了ふ。悄気しよげる、ふさぐ……涙がホロホロと頬つぺたを流れる。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
其後二度許り竹山を訪ねて来たが、一度はモウ節季近いこがらしの吹き荒れて、灰色の雲が低く軒を掠めて飛ぶ不快な日で、野村は「患者が一人も来ない。」と云つて悄気しよげ返つて居た。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
百姓はやはり百姓をしろ、と云はれて、房一はすつかり悄気しよげて、その晩はそこで泊めて貰つたが、翌朝になると、一通の手紙を示して、これを持つて町の弁護士の所へ行つてみろ、と云つた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
彼はスツカリ悄気しよげてしまつて居た。
我鬼 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
爺さんは、寡婦ごけさんのすげない返事が悲しいと言つて、心の臓が干葡萄のやうにしなびるまで悄気しよげきつてゐたが、とうと身体からだを悪くして死んでしまつた。
と、反対派の代議士は、自分達の議席で鼠のやうに小さくなつて悄気しよげてゐたものだ。
すると、一たん悄気しよげかへつた青楼ちややの主人の顔はまた晴々しくなつた。
ひど悄気しよげかへつたものださうだ。
ひど悄気しよげてゐたさうだ。
飲酒家 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
ひど悄気しよげてゐたさうだ。