恵比寿えびす)” の例文
旧字:惠比壽
火事できのこが飛んで来たり、御茶おちゃ味噌みその女学校へ行ったり、恵比寿えびす台所だいどこと並べたり、或る時などは「わたしゃ藁店わらだなの子じゃないわ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
系図を言えばたいうち、というので、系図鯛けいずだいを略してケイズという黒い鯛で、あの恵比寿えびす様が抱いていらっしゃるものです。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
枕元を見ると箱の上に一寸ばかりの人形が沢山並んでゐる、その中にはお多福たふく大黒だいこく恵比寿えびす福助ふくすけ裸子はだかごも招き猫もあつて皆笑顔をつくつてゐる。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
かつ散るくれないなびいたのは、夫人のつまと軒のたいで、鯛は恵比寿えびす引抱ひっかかえた処の絵を、色はせたが紺暖簾こんのれんに染めて掛けた、一軒(御染物処おんそめものどころ)があったのである。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちょっと恵比寿えびすに似たようなところもあるが、鼻が烏天狗からすてんぐくちばしのようにとがって突出している。
雑記(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
直垂ひたたれの上に腹巻を着け黄金作こがねづくりの小刀を癇癪かんしゃくらしく前方まえ手挟たばさみ、鉄扇を机に突き立てた様子は、怒れば関羽かんう笑えば恵比寿えびす、正に英雄偉傑いけつの姿を充分に備えているではないか。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それでいて、家につくと、彼は突然とつぜん、ここは渋谷とはちがう、恵比寿えびすだから、十銭ましてくれ、ときりだしました。てッきり、められたと思いましたから、こちらも口汚くちぎたなののしりかえす。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
前にいう漫然たる恵比寿えびすぎれのようなものは雲の如くあるがさてまとまったものは一つもない。どれを纏めようか、またどう纏めようかその辺は未だ自分でも考えて居ないのであります。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
といいながら恵比寿えびすさまみたいな顔をして袂から柴栗を二、三十だした。またおかみさんのさとの味噌漬が三年めとかでよく漬いてるからといって茄子と大根の唾のでそうな色に漬いたのをくれた。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
小学校の運動会で、父兄が招かれる。村の恵比寿えびすこう、白米五合銭十五銭の持寄りで、夜徹よっぴての食ったり飲んだり話したりがある。日もいよ/\短くなる。甘藷や里芋も掘って、土窖あなしまわねばならぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
玄冶店げんやだなにいた国芳くによしが、豊国とよくにと合作で、大黒と恵比寿えびす角力すもうをとっているところを書いてくれたが、六歳むっつ七歳ななつだったので、何時いつの間にかなくなってしまった。画会なぞに、広重ひろしげも来たのを覚えている。
「ビールはござりませんばってん、恵比寿えびすならござります」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それじゃまたビールでない恵比寿えびすでも飲むさ」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)