性急せつかち)” の例文
言ふ迄もなく掌面には米粒を蒔いておくのだが、これには性急せつかちが何よりも禁物で、どんなに早くても四時間はかゝると言つてゐる。
まあ! 貴君あなたも、性急せつかちですのねえ。わたくし達には約婚時代といふものが、なかつたのですもの。もつと、かうして楽しみたいと思ひますもの。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
にはかにトラックの響きがして、やがて前に止まつた。性急せつかちな父の声もした。晴代はぎよつとしたが、もう追つかなかつた。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
以上は餘り不謹愼な比較では有るが、然し若しも此樣な相違が有るとするならば、無政府主義者とは畢竟「最も性急せつかちなる理想家」のいひでなければならぬ。
所謂今度の事:林中の鳥 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
岩野の中から私はあの性急せつかちと正直さとをさがし出した。あのわが儘をさがし出した。馬鹿正直と言はれても平気で出て行つたその男らしさをさがし出した。
閑談 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
樽野達はB村へ行く途中の街道で、大型の写真機をかついでわき目も触れずに歩いて来る性急せつかちな青野に遇つた。彼は、樽野の「観測台」へ赴くところだつた。
鶴がゐた家 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
その性急せつかちなことは、鍋に仕掛けた芋でも人參でも十分煮えるのを待つて居られないといふ程でした。
「十二時だつて好いさ、神楽坂かぐらざかにや起きてる家がある。」と性急せつかちに帽子を取つて立たうとする。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
昔の氣紛きまぐれで(彼のやうな性急せつかちな、我儘な性質のものにはよくある缺點だ)、彼が、弱點を掴まれてしまふやうな破目はめに落ち、今更、ふり拂ふことも、無視することも出來なくなつてゐて
「ギーイコ、バツタリ」とつてをりますが、性急せつかちむすめ
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
「それからどうしたんです。」と、私は少し性急せつかちに問うた。
ごりがん (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
そのあとの空白を、粉雪こなゆき性急せつかちにやつてきて埋めつくす…
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
春葉氏は蘆花氏と違つて、別段子芋の出来るのを厭がらなかつたが、性急せつかちな小芋は味の出るまで親のそばで辛抱出来なかつた。
ふと、大きな二階の五十畳敷位の広間に大勢人が居流れて、誰か冴えた性急せつかちな声で演説をしてゐるのが聞える。
百日紅 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
モ少し何とか優しい事を云つてからでなくちやならん筈だ。餘り性急せつかちにやつたから惡い。それに今夜は俺が醉つて居た。醉つた上の惡戲と許り思つたのかも知れぬ。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「B——考へて呉れ。」と、悲しさうに性急せつかちに述べた。
昔の歌留多 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
彼の昔からの性急せつかちさが出て來た。
モ少し何とか優しい事を云つてからでなくちやならん筈だ。余り性急せつかちにやつたから悪い。それに今夜は俺が酔つて居た。酔つた上の悪戯いたづらと許り思つたのかも知れぬ。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
現に先日こなひだも銀座のある停留場で終電車を待つてゐた事があつた。無学で加之おまけ性急せつかちな終電車は、さういふ信者が夜中の街に立つてゐようと知る筈もなく、小躍りして停留場を素通りした。
「市ちゃんも仲々腕が上つた」とか、「今の若い者は、春秋に富んで居る癖に惚れ方が性急せつかちだ」とか、「橘さんも隅に置けぬ」とか、一座は色めき立つて囂々がや/\と騷ので、市子は
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
客を座敷に通すと、宮嶋氏は性急せつかちに訊いた。
「市ちやんも仲々腕が上つた」とか、「今の若い者は、春秋に富んで居る癖に惚れ方が性急せつかちだ」とか、「橘さんも隅には置けぬ」とか、一座は色めき立つて囂々わやわやと騒ぐので、市子は
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
随分性急せつかちに申込んで来て、兎も角も信吾が帰つてからと返事して置いたのが、既に一月、うしたのか其儘そのままになつて、何の音沙汰もない、自然、家でも忘られた様な形勢かたちになつてゐた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)