彷彿はうふつ)” の例文
垣根かきね近邊ほとりたちはなれて、見返みかへりもせず二三すゝめば遣水やりみづがれおときよし、こゝろこゝにさだまつておもへば昨日きのふれ、彷彿はうふつとして何故なにゆゑにものおもひつる
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
人の世の言葉や、思想は、の神秘的、具象的事相の万一をだに彷彿はうふつせしめがたき概あるにあらずや。吾れれを思うて、幾たびか躊躇ちうちよし、幾たびか沮喪そさうせり。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
お萩の話はたど/\しいものでしたが、根が悧發な娘らしく、父親の死んだ驚きの中にも、いろ/\の人の話をかき集めて、どうやらその夜の出來事を彷彿はうふつさせるのでした。
予はこの遺書をしたたむるに臨み、ふたたび当時ののろふ可き光景の、眼前に彷彿はうふつするを禁ずる能はず。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
夜々綢繆ちうびうの思ひ絶えざる彷彿はうふつ一味の調は、やがて絶海の孤島に謫死てきししたる大英雄を歌ふの壮調となり五丈原頭ごぢやうげんとう凄惨せいさんの秋をかなでゝは人をして啾々しうしう鬼哭きこくに泣かしめ、時に鏗爾かうじたる暮天の鐘に和して
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
かほばせめでたく膚かちいろなる裸裎らていの一童子の、傍に立ちてこれを看るさま、アモオルの神童に彷彿はうふつたり。人の説くを聞くに、このさかひさむさを知らず、數年前祁寒きかんと稱せられしとき、塞暑針は猶八度を指したりといふ。
唯だ兄の直覚に訴へて御推察を乞ふの外之れなく、今はその万一をだに彷彿はうふつするあたはず候。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
「きりしとほろ上人伝しやうにんでん」は古来あまねく欧洲天主教国に流布るふした聖人行状記の一種であるから、予の「れげんだ・おうれあ」の紹介も、彼是ひし相俟あひまつて始めて全豹ぜんぺう彷彿はうふつする事が出来るかも知れない。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)