引提ひっさ)” の例文
若い男を突き飛ばしておいた船頭は、腰に差していた斧を無意識に抜き取って、右の手に引提ひっさげたまま、透かさずお角の後を追蒐おっかけました。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と袖を払って長い刀を引提ひっさげて二階へどん/\/\/\と重二郎駈上ります。これから何う相成りますか一寸いき致して。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
めえ、滝の処はやっぱり真暗まっくらだっさ。野郎とうとう、めんないちどりで、ふんづかめえて、口説こうと、ええ、そうさ、長い奴を一本引提ひっさげてへえったって。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
内へ帰ると早速、夕餉ゆうげすまし、一寸ちょいと着換きかへ、糸、犬、いかり、などを書いた、読本どくほんを一冊、草紙そうしのやうに引提ひっさげて、母様おっかさんに、帯の結目むすびめトンたたかれると、すぐ戸外おもてへ。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
はいおらが屋敷内にりました柿で、重くもあるがうかまア渋が抜けたら孫に呉れべえと、孫に食わしてえばっかりで、おめえもいとわず引提ひっさげて来ましたよ……はア最う構わず
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
坂を上って、アノ薄原すすきはらくぐるのに、見得もなく引提ひっさげていた、——重箱の——その紫包を白い手で、うすものの袖へ抱え直して、片手を半開きの扉へかける、と厳重に出来たの、何の。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小「これが大野惣兵衞と知れましたからには、わしすぐに出立致して、遠からず大野惣兵衞の生首を引提ひっさげて帰って来たならば、其の功に依ってお屋敷へ帰参が叶うかも知れません」
と袖にすがるを振切って、どん/\と引提ひっさげ刀で二階へあがりました時に、白島山平もお照もびっくり致して、よもや重二郎が来ようとは思わぬから、膝にもたれ掛って心配して、何う致そう
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と入ったまま長火鉢に軽く膝をいて、向うへ廻った女房に話しかけたが、この時門口を見返ると、火の玉はまだ入らず、一件の繻子張を引提ひっさげながら、横町の土六尺、同一おんなじ処をのそりのそり。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)