ろう)” の例文
男は夢中のようで、のぼせ上がったふうで、門から近いろうの室の縁側に腰を掛けて、気どったふうに月を見上げているんですね。
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
甘いすすり泣きに一ときしいんとなったかと思うと、あまりにも早いうちに、ろうのどこかで衆僧の呼ぶ声がここの男女ふたりを驚かせた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
田舎みやげの話し草に、若宮前で御神楽おかぐらをあげて、ねじりろうの横手を通ると、種々の木の一になって育って居る木がある。寄木やどりぎ、と札を立てゝある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
見よ、一天は紺青こんじよう伽藍がらんろうの色にして
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
渡殿わたどのろうから、こう聞き覚えのある時信の声である。客として、わがでは、何度も迎えたことのある人。清盛は、いんぎんに、礼をした。
幾つかの女御や更衣たちの御殿のろうを通いみちにして帝がしばしばそこへおいでになり、宿直とのいをする更衣が上がり下がりして行く桐壺であったから
源氏物語:01 桐壺 (新字新仮名) / 紫式部(著)
すると、ろうのほのぐらいの外に、人影がさした。ひとりは直義で「——兄者あにじゃ」と呼びかけるなり内へ入って、彼一人だけ遠くに坐った。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さっきからその高氏は、掖門えきもんろう床几しょうぎをおいて、内苑ないえんの梅でも見ている風だったが、ふとぎりかけた部将の佐野十郎へ、こう呼びかけた。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まことに、彼女のほこらしさにすれば、后町きさきまちろうを通うたびにも、常に独りで、こう思惟していたことでもあろうか。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
李逵はそれを小耳にはさむと、窓際の踏み台を降り、庭からろうへ廻って、のそっと柴進の部屋へ首を突っ込んで来た。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ほれ。あそこに、柱が十本も並んでいる草舎くさぶきろうがある。あの廊のはずれに見える小さいお堂がそれでございますよ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「しゃつ! その口を八裂きにしてくるるぞよっ。侍ども、この人非人めの皮膚かわいで、焼けたる金鞭かなむちをもって打ちすえろ」ろうからつばをして、奥にかくれた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(四日はちょうど参詣のついで、ぜひ社殿のろうにおいてなと、隠れなき上手の舞をよそながら見たい)
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてろうの角にたたずんだ。——すでに宵。青ぐろい斑雲まだらぐものすきまが星を打ち出している。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして東門ろうまで大勢で送りだし、馬を引き寄せて、鞍の上まで手伝って押し上げた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
将門は、奥へ行って、ろうの壁に身を寄せ、そっと、客の人態にんていを、覗いてみた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それでいて、ろうの天井へいっぱいになるほど、おおきく見えるのであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふと見ると、相国しょうこく清盛は、中門のろうまで出て、立っていたのである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)