しあわせ)” の例文
などと、いつも悪体あくたいをつくのです。母親ははおやさえ、しまいには、ああこんなならうまれないほうがよっぽどしあわせだったとおもようになりました。
いっそこのままなおらずに——すぐそのあとで臥病わずらいましたのですよ——と思ったのですが、しあわせ不幸ふしあわせか病気はだんだんよくなりましてね。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
国衰える時は、その方どもへも当然、負担や不幸はかかって来るものぞ。まことの利を積み、真の家富を願い、子孫のしあわせを願うなれば、まず国を強うせねばなるまい
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しあわせと聞えやしませんよ。……でも笛だけは、もういつも、帯につけていますけれども、箱部屋の隅へそっとして置くばかり。七年にも八年にも望まれた事はありません。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だがここにしあわせのことには、まだそいつらは紫錦さんの居場所を、ちょっと知っていねえのさ。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
だが何たるしあわせなことであろうか。それは昭和十年五月十二日のことであった、大原孫三郎翁の訪れを受け、同氏から民藝館の建設に要すべき費用の寄贈を申し出られたのである。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「こんな大戦争が始ったというのに、鳥鍋がいただけるとは何としあわせなことでしょう」と若い女中のたつは全く浮々していた。が、妻は震駭しんがいのあとの発熱を怖れるようにうれい沈んでいた。
冬日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
まだこれ以上の兇悪な事件がもちあがらないだけが、せめてものしあわせだった。
三狂人 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
水いろちりめんのお高祖頭巾をかぶったままの、軽業かるわざお初が、廊下の薄暗さをしあわせにして、そッと、障子越しに片膝をつくように、耳をすましているとも知らず、夜更けの宿の灯の下に、ひッそりと
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「ええ、もうそれは初めっからだわ。あたし、甲谷さんの好きな所は、御自分の英語の間違いも御存知にならない所だけよ。あれならきっと奥さんにおなりになる方だって、おしあわせにちがいないわ。」
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「じゃア、あなたはどう思うの? 私がしあわせだとお思いになるの?」
むなしくほふられてしまった無数のかなしい生命にくらべれば、窮地に追詰められてはいても、とにかく彼の方がしあわせかもしれなかった。天が彼を無用の人間として葬るなら、むを得ないだろう。
永遠のみどり (新字新仮名) / 原民喜(著)
そうして今まで平凡だった歩けるという事の、異常なしあわせを今更感じるでしょう。工藝における吾々の現状は丁度それなのです。工藝界が傷を受けたので、今は用心しつつ歩かねばならないのです。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
さらによき美に入るために、またさらにしあわせな社会を生むために。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)