布置ふち)” の例文
深川の妓家ぎか新道しんみち妾宅しょうたく、路地の貧家等は皆模様風なる布置ふち構図のうちおのずか可憐かれんの情趣を感ぜしむ。試みに二、三の例を挙げんか。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
かくて不折君は余に向ひてつまびらかにこの画の結構けっこう布置ふちを説きこれだけの画に統一ありて少しも抜目ぬけめなき処さすがに日本一の腕前なりとて説明詳細なりき。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
布置ふちの妙、配備の要、隙なく、間なく、逆なく、またすでに呑敵てきをのむの気もたかく示して、壮観言語に絶すばかりだった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
竹逕ちくけい涼雨りょうう怪巌かいがん紅楓こうふう蟠松ばんしょう晴雪せいせつ……育徳園いくとくえん八景といって、泉石林木せんせきりんぼく布置ふち幽邃ゆうすいをきわめる名園がある。
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
しかし読むに従って拙劣な布置ふちと乱脈な文章とは、次第に眼の前に展開して来る。そこには何らの映像をも与えない叙景があった。何らの感激をも含まない詠歎があった。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
また生存競争の根本原因たる食物の点より考うるも、山川、島嶼、内海の布置ふち極めて自然の妙を得、食するに足る獣魚、穀物、貝類を供給しておったため、人間が応揚おうようで、落着きがあった。
これら凡てこまやかなる自然の布置ふちまことに愛すべきものあり。
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
すべて他日のための布置ふちだということは誰にもわかる。尊氏のさしずにもその遠謀にも寸分、余すところはない。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もっとも南岳の絵もその全体の布置ふち結構けっこうその他筆つきなどもよく働いて居つてもとより軽蔑すべきものではない。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
こういうとただ華麗かれいな画のようですが、布置ふちも雄大を尽していれば、筆墨ひつぼく渾厚こんこうきわめている、——いわば爛然らんぜんとした色彩のうちに、空霊澹蕩くうれいたんとうの古趣がおのずかみなぎっているような画なのです。
秋山図 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「抜かりがあろうか」と、武敏は笑って——「布置ふちは今朝から武敏の胸には描けている。きょう、これより筥崎はこざきノ宮に戦捷せんしょうの報をささげ、なお尊氏討伐の祈願をこめる」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すすめ、先鋒せんぽう、本軍、遊軍などの布置ふちに、抜かりなきを期しておかれてはいかがとぞんじますが
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして旗上げ当初は何もかもが順調であったが、さいごへ来ては事すべて、自分の布置ふちや考えとくいちがってむりな戦をあえてしてきた手際のまずさに思いいたらずにいられなかった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また長年にわたる読者のおたずね等にこたえるために書いたりしたものが、あらましですから、いま一書として編録されたのを見ますと、まことに布置ふち祖述そじゅつの首尾もたいを成しておりません。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)