差措さしお)” の例文
本家を差措さしおき、小生等夫婦の計らいを以て話を進めてしまったことについて、或は気持を悪くしておられるのではないかと思う。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
物価が高くなつて箪笥の値段は三割方張るかも知れないが、道徳的だと思へば我慢の出来ない事もない、先づ何を差措さしおいても結婚する事だ。
見ると、それはなつかしい山県行三郎君で、自分が来たといふ事を今少し前に知らせて遣つたものだから、万事を差措さしおいて急いで遣つて来たのであつた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
ところが、下手人の疑ひはあらぬ三人にかゝつて、世上の噂は大きくなるばかり。土佐守樣御名前も引合に出さうになつて見ると、其儘には差措さしおき難い。
向島むこうじまのうらがれさえ見にく人もないのに、秋の末の十二社、それはよし、ものずきとして差措さしおいても、小山にはまだ令室のないこと、並びに今も来る途中
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼と御縫さんとの結婚は、ほかに面倒のあるなしを差措さしおいて、到底物にならないものとして放棄されてしまった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこで流した兄の血潮はまだ乾いてはいないのに、その恨みは決して消えてはいないのに、それを差措さしおいて、自分は今、意趣も恨みもない人を斬ろうとして行くのだ。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
藩中一般の説はしばら差措さしおき、近い親類の者までも西洋は大嫌だいきらいで、何事も話し出すことが出来ない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
余は「みゝずのたはこと」の校正を差措さしおいて、鶴子を連れて其席につらなり、日暮れて帰ると、提灯ちょうちんともして迎えに来た女中は、デカが先刻せんこく甲州街道で自動車にかれたことを告げた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
仕方がないから、例の某大家にすがって書生に置いて貰おうとすると、先生は相変らずグズリグズリと煮切らなかったが、奥さんが飽迄あくまで不承知で、先生を差措さしおいて、御自分の口から断然きっぱり断られた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
と、内々ない/\は広い京都中でこの羽織の似合ふのは、富豪ものもちの自分を差措さしおいてはほかに誰も居るまいとでも思つてゐるらしかつた。
石原いしはら利助りすけが大怪我をしたといううわさを聞いた銭形の平次、何を差措さしおいても、その日のうちに見舞に行きました。
その本体はかえって差措さしおき、砂地にった、朦朧もうろうとした影に向って、たしなめるように言った。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
皆が店をのぞいて、与右衛門さんのおかぶ梅ヶ谷の独相撲ひとりずもうがはじまりだ、と笑う。与右衛門さんは何処までも自己中心である。人が与右衛門さんの地所を世話すれば、世話人は差措さしおいて必直談じきだんに来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
と、母が寝反りを打って此方こちらを向いた。私は此返答は差措さしおいて
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ところが、下手人の疑いはあらぬ三人に懸って、世上のうわさは大きくなるばかり。土佐守様御名前も引合に出そうになってみると、そのままには差措さしおき難い。