差懸さしかゝ)” の例文
くるまはやがて町端まちはづれを離れて、暗い田舎道へ差懸さしかゝつた。くろい山の姿が月夜の空にそゝり立つて、海のやうに煙つた青田から、蛙が物凄くきしきつてゐた。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
もつとみちのないところ辿たどるのではなかつた。背後うしろに、覚果さめはてぬあかつきゆめまぼろしのこつたやうに、そびへた天守てんしゆ真表まおもて差懸さしかゝつたのは大手道おほてみちで、垂々下だら/\おりの右左みぎひだりは、なかうもれたほりである。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
看上みあぐるばかりの大熊手おほくまでかつぎて、れい革羽織かはばおり両国橋りやうごくばしの中央に差懸さしかゝ候処そろところ一葬儀いちさうぎ行列ぎやうれつ前方ぜんほうよりきたそろくるによしなくたちまちこれ河中かちう投棄なげすて、買直かいなほしだ/\と引返ひきかへそろ小生せうせい目撃致候もくげきいたしそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)