巉巌ざんがん)” の例文
しかも眼のとどく限り、東方と北方の海上には、赤膚の巉巌ざんがんが、世界の障壁のごとくに、涯しもなく列なって、断岩と断岩との間から顔をのぞかせている。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
更に転じて西松浦の郡界に到れば、黒髪山くろかみやまほしいまゝに奇趣を弄ぶあり、巉巌ざんがんむらがり立てるはこれ正に小耶馬渓せうやばけい
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
紀州灘きしゅうなだ荒濤あらなみおにじょう巉巌ざんがんにぶつかって微塵みじんに砕けて散る処、欝々うつうつとした熊野くまのの山が胸に一物いちもつかくしてもくして居る処、秦始皇しんのしこうていのよい謀叛した徐福じょふく移住いじゅうして来た処
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そもそも塩原の地形たる、塩谷郡しほやごほりの南より群峰の間を分けて深く西北にり、綿々として箒川ははきがわの流にさかのぼ片岨かたそばの、四里にわかれ、十一里にわたりて、到る処巉巌ざんがんの水をはさまざる無きは
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
いやこゝでこそ、呑気のんきらしいことをいふものゝ、磊々らい/\たる巉巌ざんがん尖頂せんちやうぢて、大菩薩だいぼさつちひさなほこらの、たゞてのひらるばかり……といつたところで、人間にんげんのではない、毘沙門天びしやもんてんてのひらたまふ。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いよいよ日本海にずれば、渺茫びょうぼうとして際涯なく黒い海面は天に連なり、遥か左方は親知らず子知らずのへんならん、海波を隔てて模糊もこの間に巉巌ざんがんの直ちに海に聳立そばだっている様が見える。
殊に巌山といい、嶮峻巉巌ざんがんなどいう文字は、越後沢山の方に適した形容であるし、南方から望めば山勢奔馬の如きものがあって、駒ヶ岳の名は越後沢山に冠せしめた方がよいようである。
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)