岩窟いわや)” の例文
鰹節かつおぶしや生米をかじって露命をつなぎ、岩窟いわやや樹の下で、雨露をしのいでいた幾日と云う長い間、彼等は一言も不平をこぼさなかった。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
家の近所の岩窟いわやの中へお隠し申して、内證で食べ物を運んでいたが、日が立つにつれてそれが名主の耳に這入り、包みきれなくなってしまった。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ある朝、人猿の騒ぐ声が物々しく岩窟いわやまで響いて来た。そして意外にも大砲の音が湖水の向こうから聞こえて来た。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
で、ずっと神石窟しんせきくつという岩窟いわやの所から川に沿うて二町ばかり降りますと、大きな温泉が三つばかりある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「おい楊春ようしゅん。どうもこの頃は、さっぱりじゃねえか。……陳達ちんたつはまだ岩窟いわやの中で寝こけているのか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの明石の岩窟いわやから、そっとよこしました経巻とか、まだおむくいのできておりません願文の残りとかなのでございますが、姫君にも昔のことをお話しする時があれば
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
家族を率いて次から次へと雨露を凌ぐに足る様な適当な岩窟いわやや、塚穴つかあななどを見付けて臨時の住家すみかとし、ざる竹籠たけかごなどを造っては、その付近二三里の場所を売って歩く。
我らを縛せし機運の鉄鎖、我らをとらえし慈忍の岩窟いわやはわが神力にてちぎりてたり崩潰くずれさしたり、汝られよ今こそ暴れよ、何十年の恨みの毒気を彼らに返せ一時に返せ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
どこまでも自分じぶん過去こしかたをおわすれなく、『自分じぶん他人ひとさまのように立派りっぱところへはられない。』とっしゃって、神様かみさまにおねがいして、わざとちいさな岩窟いわやのようなところこもって
牝牛めうしを頭にいただいたハトル女神のかお? アプシンベル神殿の岩窟いわやの四箇の神像のその一つのクラノフェルの面に似ていると言えば言えるかも知れないが、それでありようはずのないのは
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかし不思議にも人猿どもは、私を絶えず監視して森の奥をおとのうのを拒絶した。そしてもちろん岩窟いわやの老人も私が森林へ分け入ることを非常に嫌っているらしかった。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これこそ彼の岩窟いわやならめと差しのぞき見るに、底知れぬ穴一つ窅然ようぜんとして暗く見ゆ。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
怪老人は笑って、次に、岩窟いわやの鉄柵を打ちくだいた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しばらく岩窟いわやは静かであった。時々とばりの揺らぐのは、月子が隣室で歩くからであろう。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
するとなお、岩窟いわやの口から、また一人
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
東条数馬と裸体武兵衛とは石川五右衛門の後に従いて岩窟いわやから外へ走り出た。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
こうして再び老人と一緒に岩窟いわやで生活するようになった。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いっそう岩窟いわやはひっそりとなった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
人の住む岩窟いわやならぬに
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)