しばし)” の例文
かくて曲者は間近の横町にりぬ。からうじておもてげ得たりし貫一は、一時に発せる全身の疼通いたみに、精神やうやく乱れて、しばしば前後を覚えざらんとす。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
彼の女は名匠ヴェラスケスによつてしばしば描かれたやうな卵形の顔をした、額の余り高くない美人であつた。
アリア人の孤独 (新字旧仮名) / 松永延造(著)
然れども暫らく塲景の精不精とを外にして、その塲景と演者との関係を察する時、吾人はしばしば我が塲景の、余りに演者の動作に対する不自由を与ふるを認むるなり。
劇詩の前途如何 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
ここニ住シテ凡ソ幾年、しばしバ春冬ノかわルヲ見ル寄語ス鐘鼎家しょうていか、虚名ンデ益なかラン」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
従って、緑内障の手術には、眼球剔出法が、最もしばしば応用されるものであります。
痴人の復讐 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
最もしばしば話の中に出て来るのは吉原という地名と奥山という地名とである。吉原は彼等の常に夢みている天国である。そしてその天国の荘厳が、幾分かお邸の力で保たれているということである。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
沸々ふつ/\として到るにふ、天そゝり立つ大嶽とはれか、眼前三四尺のところより胴切に遇ひて、ほとんど山の全体なるかを想はしむ、下界しばしば見るところの井桁ゐげたほどなる雲の穴よりあるいしわを延ばし
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
屡倚水畔榭 しばし水畔すいはんうてなるべし〕
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼はおのれ今日こんにちあるを致せし辛抱と苦労とは、いま如此かくのごとくにして足るものならずとて、しばしばその例を挙げては貫一を𠹤そそのかし、飽くまで彼の意を強うせんとつとめき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
壯烈そうれつなる剛腸ごうちようしばし破天荒はてんこう暴圖ぼうとくわだて、シベリアの霜雪そうせつをして自然しぜん威嚴いげんうしなはしむ。
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
実験が思わしく進まぬとき、しばしば私は徹夜して気むずかしい顔をしながら働きましたが、そのようなとき妻もまた徹夜して、どこまでも私の気を引き立てるようにつとめて呉れました。
人工心臓 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
彼れが絹布の貿易にたづさはつてゐる小商人だと云ふ事を私はしばしば聞いて知つてゐたが、しかも、彼れの住居には何一つ商品らしいものなぞは積まれてゐなかつたし、それに、日曜以外の日でも
アリア人の孤独 (新字旧仮名) / 松永延造(著)
いたくもこの弁論に感じたる彼の妻は、しばしば直道の顔を偸視ぬすみみて、あはれ彼が理窟りくつもこれが為にくじけて、気遣きづかひたりし口論も無くて止みぬべきを想ひてひそかよろこべり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)