小袴こばかま)” の例文
寺の内外は水を打ったようにしずまった。箕浦は黒羅紗くろらしゃの羽織に小袴こばかまを着して、切腹の座に着いた。介錯人馬場は三尺隔てて背後に立った。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その一つは、萌黄匂もえぎにおいよろいで、それに鍬形くわがた五枚立のかぶとを載せたほか、毘沙門篠びしゃもんしのの両籠罩こて小袴こばかま脛当すねあて鞠沓まりぐつまでもつけた本格の武者装束。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
今一人は青山銀之丞ぎんのじょうという若侍であった。関白七条家の御書院番で、俗に公家侍というだけに、髪の結い振り。素袍すおう小袴こばかまの着こなしよう。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そして北庭の的場の方へ走って行くその紫濃染むらごぞめの小袴こばかまが遠くなるまで、ここの大人ふたりは、長い月日の感慨を胸の下地においてながめていた。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
海陸飛脚の往来櫛歯くしのはくよりもいそがわしく、江戸の大都繁華のちまたにわか修羅しゅらちまたに変じ、万の武器、調度を持運び、市中古着あきなう家には陣羽織じんばおり小袴こばかま裁付たっつけ簑笠みのかさ等をかけならべ
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
風采ふうさいもよく、背丈せたけもあり、同役は著流きながしが常なのに、好んで小袴こばかまをはかれました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
(これを聽きて春彦は控へる。楓は起つて蒲簾をまけば、伊豆の夜叉王、五十餘歳、烏帽子ゑぼし、筒袖、小袴こばかまにて、のみつちとを持ち、木彫の假面を打つてゐる。膝のあたりには木の屑など取散したり。)
修禅寺物語 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「まず小袴こばかまから……」
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
葛布くず小袴こばかまに、縹色はなだいろ小直垂こひたたれ、道中用の野太刀一腰ひとこし、次の間においているだけだった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先手さきては両藩の下役人数人で、次に兵卒数人が続く。次は細川藩の留守居馬場彦右衛門、同藩の隊長山川亀太郎、浅野藩の重役渡辺きそうの三人である。陣笠小袴こばかまで馬にまたがり、持鑓もちやりてさせている。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)