寧日ねいじつ)” の例文
夏ともなれば私たちは草いきれを嗅いでとんぼ採りに寧日ねいじつがなかった。桜林と廓外との境には丈の高い木柵がめぐらしてあった。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
当時の日本の内状は如何いかんというに、室町むろまち将軍の末路で、諸将兵を相率いて交戦に暇なく、人民寧日ねいじつなしといういわゆる群雄割拠の時代であった。
沼南はまた晩年を風紀の廓清かくせいささげて東奔西走廃娼禁酒を侃々かんかんするに寧日ねいじつなかった。が、壮年の沼南は廃娼よりはむしろ拝娼で艶名隠れもなかった。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
芝は三田の寺町へ格好な家を一軒借りてこれも市中の見物に寧日ねいじつないという有様であった。しかし二人が江戸へ来たのには実に二つの理由があった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
爾後じご病牀寧日ねいじつ少く自ら筆を取らざる事数月いまだ前約を果さざるに、この事世に誤り伝へられ鉄幹子規不可ふか並称へいしょうの説を以て尊卑そんぴ軽重けいちょうると為すに至る。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そしてまた科学者たちは本来の科学研究を行うのに寧日ねいじつなく、自己の科学趣味や科学報恩の意志を延長して科学小説にまで手を伸ばそうという人は皆無だった。
『地球盗難』の作者の言葉 (新字新仮名) / 海野十三(著)
部下と共に、斬込みに使用する破甲爆雷などの製造に寧日ねいじつなかった。製造所は鐘乳洞しょうにゅうどうの中であった。鍾乳石の垂れ下る洞窟の中で、一日中火薬の臭いと共に暮した。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
低速のおかげで往復に寧日ねいじつなく、呼べば「ヘーイ」と調子の外れた大声で返事はするが目じろぎもせず必死の構へは崩れをみせず、真剣敢闘、汗は流れ、呼吸は荒れ
金銭無情 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
ただあごひげに至ってはその時から今日こんにちに至るまで、寧日ねいじつなくり続けに剃っているから、地面と居宅やしきがはたして髯と共にわが手にるかどうかいまだに判然はんぜんせずにいた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さうして明日は何かよい木を捜し出さねばと、毎日毎日、土いぢりに寧日ねいじつがなかつた。春には牡丹ぼたんがあつた。夏には朝顔があつた。秋には菊があつた。冬には水仙があつた。
しばしなりとも下界にりて暖かそうな日の光に浴したしなどたわむれをいいしことありたり、実に山頂は風常に強くして、ほとんど寧日ねいじつなかりしなり、しかれども諸般しょはんことやや整理して
策謀連携れんけいの往来に寧日ねいじつなく、勝豊を長浜へ入れたり、滝川ともしばしば会ったり、何かと心せわしかったが、信孝はその中で、同族のことばや四囲の事情をいて、どしどし事を運んでしまった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あなた方は一週二日でも、私の方は寧日ねいじつなしですから」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
前田利家や徳川家康から小田原陣に参加するやうにといふ秀吉の旨を受けた招請のくるのを口先だけで有耶無耶うやむやにして、この時とばかり近隣の豪族を攻め立て領地をひろげるに寧日ねいじつもない。
二流の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)