威容いよう)” の例文
見れば、正面しょうめん床几しょうぎに、だかさと、美しい威容いようをもった伊那丸いなまる、左右には、山県蔦之助やまがたつたのすけ咲耶子さくやこが、やや頭をさげてひかえている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
聞く者その威容いようおそれ弁舌におどろ這々ほうほうていにて引き退さがるを常としたりきと云っているもって春琴の勢い込んだ剣幕けんまくを想像することが出来よう。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そのあくる日から復一は真佐子に会うと一そう肩肘かたひじを張って威容いようを示すが、内心は卑屈ひくつな気持で充たされた。もう口は利けなかった。真佐子はずっと大人振ってわざと丁寧ていねい会釈えしゃくした。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼は、禅尼の待っているへやへはいると、非常にていねいな辞儀をした。威容いようなどはちっとも振らない、昔ながらの息子であった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中柄ちゅうがらで肉のしまっているこの女水泳教師のうすい水着下の腹輪の肉はまだ充分じゅうぶん発達しないさびしさを見せてはいるが、こしの骨盤ははち型にやや大きい。そこに母性的の威容いようたくましい闘志とうしとをひそましている。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
人各〻の装いばかりでなく、馬にすら飾り、槍鉄砲も拭き磨いて、威容いようの備えのほかに、一種の「美」を加えていた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
義明の襲来と聞いてもまだ分らないところに、平家方の軍勢三千余騎の美々しさと、愚かな威容いようとがあった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれがそこに、威容いようをつくって、立ったと思うと、秀吉は、今まで腰かけていた床几をうしろへ残して、ただひとり、ととと、と小股こまたきざみに、駈け寄って来た。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戦陣で見られるこの人の威容いようというものは、いったいどこに備わっているものなのか。こんなとき、一糸まとわぬ彼の肉体を熟視すると、それはまことに貧弱なものだった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秀吉は、わざと、その意地をかなかった。威容いようを示して、敢えて攻めず
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
機山大居士きざんだいこじ武田信玄たけだしんげんまご天性てんせいそなわる威容いようには、おのずから人をうつものがあるか、こういうと呂宋兵衛にしたがう山犬武士ども、おもわず耳のまくをつンかれたように、たじたじとして
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「もちろん、あるべきにございましょう。威容いようの上からも」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)