妹背山いもせやま)” の例文
妹背山いもせやまの両ゆかで、大判司の人形は国五郎、太夫は綾瀬、定高さだかの人形は伊三郎、太夫は播磨という時にもやはり大入りであった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「そういう奴を見なけりゃあ話にならない、明日あしたの出し物は妹背山いもせやまだそうだから、こいつはちょっと見物みものだろうよ」
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
……妹背山いもせやま言立いひたてなんぞ、芝居しばゐのはきらひだから、あをものか、さかな見立みたてで西にしうみへさらり、などをくと、またさつ/\とく。おんやくはらひましよな、厄落やくおとし。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「まるで妹背山いもせやまだ、——ところで、物干臺から落ちて死んだに間違ひがなきや、下手人は腐つた手摺てすりか何んかだらう。十手よりは出入りの大工の方に御用ぢやないか」
ふきの厚い大名縞の褞袍どてら弁慶のしたうまを重ね、妹背山いもせやまの漁師鱶七のように横柄に着膨れて谷川に沿った一本道を歩いて行ったが、どこまで行っても山の斜面なぞえと早瀬の音。
生霊 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
一言ひとこと……今一言の言葉の関を、えれば先は妹背山いもせやま蘆垣あしがきの間近き人を恋いめてより、昼は終日ひねもす夜は終夜よもすがら、唯その人の面影おもかげ而已のみ常に眼前めさきにちらついて、きぬたに映る軒の月の
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
天下茶屋でも、妹背山いもせやまでも、日蓮記でも、菅原伝授手習鑑でも、すべて序から大尾たいびまで、つまり竹田出雲や近松浄瑠璃集にある通りを院本まるほんどおりそっくり上演するのであった。
「あれ、あれをご覧なさい、あすこに見えるのが妹背山いもせやまです。左の方のが妹山、右の方のが背山、———」
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
主なる俳優は市川八百蔵、市川寿美蔵、市川新蔵、中村伝五郎、嵐和三郎、中村勘五郎、中村鶴蔵、岩井松之助などという顔触れで、一番目狂言は「妹背山いもせやま」と「膝栗毛ひざくりげ」のテレコ。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
芝居道でいえば、「寺子屋」の春藤玄蕃しゅんどうげんばが赤いかみしもを着て威張ったり、「鎌倉三代記」の時姫がお振り袖をジャラジャラさせ、「妹背山いもせやま」の鱶七ふかしちが長裃を着けるのと、同じ筆法と御許しを願いたい。
川をへだてて、こちらの岸の方のが妹山、向うの岸の方のが背山、———妹背山いもせやま婦女庭訓おんなていきんの作者は、恐らくここの実景に接してあの構想を得たのだろうが、まだこの辺の川幅かわはば
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そのときの狂言は一番目が「妹背山いもせやま」の吉野川、道行みちゆき、御殿、中幕が「矢口渡やぐちのわたし」、二番目が新作の「伊勢音頭いせおんど」で、一番目の吉野川では団十郎の定高さだか、芝翫の大判事だいはんじ、左団次の久我之助こがのすけ、福助の雛鳥。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
老人は昨日、これとお経の読みかたとを習うために惜しいところで妹背山いもせやまの芝居を切り上げて、九時から十二時近くまで熱心に教わっていたので、要もお附合いに節をおぼえてしまったのである。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その二 妹背山いもせやま
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)