奔命ほんめい)” の例文
勤王運動の実践に桂が奔命ほんめいし出してからは、常に、密書を交わして、江戸の消息を彼に与え、また京洛みやこの消息を彼からけていた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
川上音二郎の細君の名が、わたしたちの耳へまた伝わって来たころには、彼女は奔命ほんめいつかれきっていたのだ。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「あの人が羨ましいのじゃないが、ああ云う風に余裕があるような身分が羨ましい。いくら卒業したってこう奔命ほんめいに疲れちゃ、少しも卒業のありがた味はない」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それよりも、あまりに選名が早いので、それに縄をつけて、木に結ぶことの奔命ほんめいに窮するほどの与八。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
風に吹き立つ枯葉のように、八方分身十方隠れ、一人の体を八方にかち、十方に隠れて出没し! 敵をして奔命ほんめい疲労つかれしめ、同士討ちをさせるがためであった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そもそも陵の今回の軍たる、五千にも満たぬ歩卒を率いて深く敵地に入り、匈奴きょうど数万の師を奔命ほんめいに疲れしめ、転戦千里、矢尽き道きわまるに至るもなお全軍空弩くうどを張り、白刃はくじんを冒して死闘している。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
あやまって数年来、彼は火元の炎に水をかけず、炎の影のうつる所へばかり兵を向けてあわや奔命ほんめいに疲れかけようとしていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
主人は裏へ廻って見たり、後架からのぞいて見たり、後架から覗いて見たり、裏へ廻って見たり、何度言っても同じ事だが、何度云っても同じ事を繰り返している。奔命ほんめいに疲れるとはこの事である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
敵をして奔命ほんめい疲労つかれさせようとした。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「は。申しわけございませぬが、天下の大事にふと心を悩まし、また万一の間違いでもあらぬよう、その下調べに、奔命ほんめいいたしておりましたので」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幸いに、死者や民家の被害は、思ったほどでもなかったと分って、数日の後には、人々もややほっとして、災後の始末に奔命ほんめいしていたが、陰陽師おんようじ安倍泰親あべのやすちか
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それだけに、彼の戦法も、奇襲、詭策きさくもっぱらとし、戦陣は長期を計り、一気に決戦することを好まず、長期出没して、信長を奔命ほんめいにつからすのが目的かのようであった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
部下や村の者に山狩をさせたり、夜昼のけじめなく捜索に奔命ほんめいさせたりしておいて、自分は、陽が暮れればこの寺を宿として、馳走酒ちそうざけにあずかっているという身分らしい。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
波に乗って機を掴もうとする町人達のはしこい投機心は、もうその方へ奔命ほんめいを賭けていて、藩札の引換にわざわざ札座へやって来る時間さえ惜しくなっているらしいのである。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お下向早々、高氏さまの不当な御蟄居ごちっきょが、そもいかなる幕府の御嫌疑によるものなりやと、その御詮索ごせんさく奔命ほんめいやら、要路の方々に迫って、いちいち御直談ごじきだんをおとげあるやらで……
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
右馬介はあの雲水姿を便衣べんいとして、手下も使い、ここ数日それに奔命ほんめいしていたが
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
野にし山に寝、日夜奔命ほんめいに疲れていたが、どじょうひげの大将は、本陣の寺をむしろ安息所ともして、悠々と泊りこんでいるため、寺では夕方になると風呂をわかすとか、川魚をくとか
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
軍隊も「食」に奔命ほんめいしなければならない。しかも山東の国々ではその年、いなごの災厄のため、物価は暴騰に暴騰をたどって、米一こくあたいは銭百貫を出しても、なかなか手に入らなかった。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)