大胯おおまた)” の例文
彼は息もつけないで、胸に手をあてて動悸どうきを押ししずめようとしていた。彼は大胯おおまたに歩き回った。コゼットを抱いて言った。
彼は傾斜に引かれてほとんど駆けながら、大胯おおまたに歩を運んでいた。散歩の初めから頭につきまとってた律動をもってる一句を、彼は歌っていた。
城用達しろようたしの町人大津屋十右衛門は、せかせかと大胯おおまたに歩いていた足を止めて、濠端の暗がりから歯を見せて近づいて来る笑い顔を、振り向いた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
車掌のような帽子に裾の長い軽外套ダスタアを羽織った椅子代あつめの多くは老人が、緑いろの展開のあいだをゆっくり大胯おおまたにあるいているのを見かける。
その足跡は前のと入れ違いになっているが今度は爪先ばかりでなく踵の跡もチャンと附いてずっと大胯おおまたになっている。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一日に十里も歩けば、二日目は骨である。二人は大胯おおまたに歩いた。蒸暑むしあつい日で、二人はしば/\額の汗をぬぐうた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
一人の聡明そうめいそうな怪物が、悟浄に向かい、真面目まじめくさって言うた。「真理とはなんぞや?」そしてかれの返辞をも待たず、嘲笑ちょうしょうを口辺に浮かべて大胯おおまたに歩み去った。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
寒い廊下を大胯おおまたで行きつ戻りつ、何か自分が、いま、ひどい屈辱を受けているような、世界のひとみんなからあざ笑われているような、いても立っても居られぬ気持で
火の鳥 (新字新仮名) / 太宰治(著)
私は通学の途中、先生が散歩していられるのを折々見かけた。太い兵児帯を無造作に巻きつけて、何物かに駆り立てられているかのように、急いで大胯おおまたで歩いて行かれた。
西田先生のことども (新字新仮名) / 三木清(著)
私は覚えているが、彼が大胯おおまたに歩いてゆくにつれてその後に彼の息が煙のように残っていた。
苦笑と共に藤吉は、死んだ気の伝二郎を引っ立てて大胯おおまたに進んだ。ぱったり出遇った。
山三郎は圖書を小脇に掻い込んだまゝ大胯おおまたに歩いて庭に下りようと致します。
朝商売あさあきないの帰りがけ、荷も天秤棒も、腰とともに大胯おおまたに振って来た三人づれが、蘆の横川にかかったその橋で、私の提げたざるたかって、口々にわめいてはやした。そのあるものは霜こしを指でつついた。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして娘はほとんど無一文の状態で残されたらしかった。クリストフは大胯おおまたに階段を上がっていって、とびらが開け放してある四階の部屋にはいり込んだ。
そう云って大胯おおまたに立ち去ってゆく二人を主税は止めなかった。当惑と、悲しみとに、紅顔は涙に黒くよごれた。父も母もないうちの灯には、何の魅力もなかった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし表面は飽くまでも平静を装うていた。今の電車から降りた官吏や、学生や、労働者らしいものが十二三人急いで行くのに混じって、悠々と大胯おおまたに踏切を越えた。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼は内ポケットから財布を取出して、中をあらためると、再びそれをしまった。それから、自分の興奮と動悸とを静めるために、ことさらに大胯おおまたに、今おりて来た坂道をまた登りはじめた。
プウルの傍で (新字新仮名) / 中島敦(著)
手拭を右の手に握り、甕から少しはなれた所に下駄を脱いで、下駄から直に大胯おおまたに片足を甕に踏み込む。あつ、と云いたい位。つゞいて一方の足も入れると、一気にどう尻餅しりもちく様にわる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
クリストフはその悲しみの種を聞くひまもなかった。彼は大胯おおまたに階段をまたぎ降り、フォーゲル一家のもとに押しかけていった。彼は憤りに燃えたっていた。
と、その男は、一学の姿を見かけて大胯おおまたに入って来た。ちょっと彼も見違えていたのである。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はそこに何か見付けたらしく、大胯おおまたに其の窓の前に歩いて行った。私も彼について行ってのぞいて見た。それは新発売の性器具の広告で、見本らしいものが黒い布の上に並べられていた。
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
こんな風に自問自答しているうちに私は応接間へ大胯おおまたで帰って来た。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
東京が文化が大胯おおまたに歩いて来ました。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そして冷たい空気を呼吸しながら、大胯おおまたに歩き回った。