)” の例文
老爺おぢいさんが云つて呉れた時分だ……あの頃にお前は未だ髪の毛などをげて居たよ、その人が最早もうよめさんに行くんだからねえ。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
曾て帰省した時の服装を見ると、地方では奏任官には大丈夫踏める素晴しい服装なりで、なにしても金の時計をぶらげていたと云う。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
私は説明を続けようとしてふと若い男の方を見ると、彼は自席のところにりかかって窓の外へをぶらげたまま、真蒼な顔をしていた。
岩の蔭から振向いてみると、通りかかった里の女房であろう、大原女おはらめのような山袴やまばかま穿き、髪は無造作に油けもなく束ねて肩へげている。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
げなければならないこともありませんしね。行き当りばったりで気に入ったところで唄っていさえすればいいんですよ。それだけが取りどころです。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
所々綴布つぎの入つた腰迄の紺の厚衣あつしを、腹まで見える程ゆるく素肌に着て、細い木綿しぼりの帯を横に結んで、其結目の所に鼠色に垢のついた汗拭をげて居た。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
「あんな物をぶらげてゐたところで、何の役に立つといふぢやなし、いつそめたらどんなものだね。」
日給は七十五銭也の女工さんになって今日で四カ月、私が色塗りをした蝶々のおげ止めは、懐かしいスヴニールとなって、今頃はどこへ散乱して行っていることだろう——。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
猟銃を肩にして獲物袋をげた五六人の遊猟者が村の奥の方から出て反対の方へ過ぎて行つた。何となく半島の奥を思はせて、私達は、互に顔を見合せてその一群の後を見送つた。
伊良湖の旅 (新字旧仮名) / 吉江喬松(著)
赤毛はじゃらんと下にがりましたけれども、実は黄色の幽霊はもうずうっと向うのばけもの世界のかげろうの立つ畑の中にでもはいったらしく、影もかたちもありませんでした。
ふと見ると彼女の胸に小さなメタルががっている。何心なく手に取り上げて裏返して見ると、四十歳前後の立派な紳士と、中学校の制服を着、房々ふさふさした髪の毛をした紅顔の美少年との写真があった。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
ぶらりと両手をげたまま、けいさんがどこからか帰って来る。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
東京へ着いたのは其日の午後の三時頃だったが、便たよって行くのは例の金時計をぶらげていたという、私のうちとは遠縁の、変な苗字だが、小狐おぎつね三平という人のうちだ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
彼は波止場に腰をかけて両脚をぶらげたまま、じっと考えこんでいたのであった。
「河にいるし海にもいるの、針のさきに餌をつけ、おさかなの居そうなところへげておいて、静かにしているのです。お腹のへったおさかなが来て、フイに食べて針に引ッかかる……。」
後の日の童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
お桐はもたれ蒲団に頭を押しつけて居た、頭を揚げると、赤い真綿でもげた様に、血の塊が口から垂れ下つて居た。平七はお光にお桐の頭をもたせて自分は口から其血の塊をたぐり出した。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)