固唾かたづ)” の例文
見物も此の場の成行きに固唾かたづんでなりを沈めて居るものゝ、そろ/\舞台に穴があきさうになつて来るので気が気でなくなつて来た
(新字旧仮名) / 喜多村緑郎(著)
お霜は大きく眼を開いて、ゴクリと固唾かたづを呑みました。忠義者には相違ないまでも、お春に比べると、何となく神經のにぶさうな女です。
たのしむためにか? 苦しむためにか? みんな耳を傾けて聞いてゐる。固唾かたづをのんだまま。身分のある人びとには、語られてゐることがすつかり分かつた。
台所に顫へてゐる女中を後に残しながら、固唾かたづを飲みながら、老人の後から、いて行つた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
と息もかずに饒舌しゃべるのを、私も固唾かたづを呑んで聞澄ききすましていたが、はなしおわるを待兼まちかねて
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
やがて階段を上る父の跫音が聞え、次の間で、千種は固唾かたづを呑んだ。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
固唾かたづみたりし荒尾は思ふところありげに打頷うちうなづきて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
私たちは固唾かたづを呑んで、その続きを待ち構えました。
手術 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
茂吉は大きく固唾かたづを呑みました。このむくつけき庭男は、色つぽい後家のお豐に對して、あまり好感は持つて居なかつた樣子です。
落着き拂つた吾妻屋永左衞門の言葉に、妙な殺氣をカキ立てられて、大井久我之助も、國府彌八郎も、思はず固唾かたづを呑みました。
ガラツ八と錦太郎はゴクリと固唾かたづを呑みました。事件のあまりに不思議な展開に、考へることも、異議をさしはさむことも出來なかつたのです。
内から何んの反響もなければ、その次はどうしたものか、平次も其處までは考へなかつたらしく、窓を眺めて固唾かたづを呑みました。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
枯柴の火は大方消えて、壇を取卷く數十の好奇の眼は、なかなか立去りさうもなく、固唾かたづを呑んでことの成行を見て居ります。
其處には派手なお内儀のお千世を始め、老番頭忠助、書き役又六、甥の傳七郎を始め、小僧、下女まで十幾人、固唾かたづを呑んでひかへたのです。
お杉はゴクリと固唾かたづを呑んで、三白眼を大きく見開きます。肩に肉の付いた、手は凍傷とうしやうあとのある、なりふり構はぬ姿です。
平次は一向こだはりのない調子で、其處に固唾かたづを呑む圓陣の顏を一とわたり見やり乍ら、部屋の中に眼を移しました。
幸七の後ろには、好い男の手代良助、惡戯いたづら盛りらしい小僧の庄吉などが、不安と焦躁に固唾かたづを呑んで控へました。
ガラツ八もさすがにゴクリと固唾かたづを呑みました。お新はもう疊の上に突つぷして、聲をあげて泣いてゐるのです。
四人は思はず固唾かたづを呑みました。錢形平次の説明は、あまりに適切で、一言半句の異論を挾む餘地もありません。
八疊の質素な部屋に、首をあつめるやうに並んだ六人は、何を切出すかわからぬ、錢形平次の話に固唾かたづを呑みます。
それを取り卷いて、お照、お豊、お光、それに奉公人達、固唾かたづを呑んで、平次のやりやうを眺めて居るのでした。
さすがの平次も、受け答へも出來ないほど、人の憎しみの恐ろしさに、固唾かたづを呑んで次の言葉を待つばかりです。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
若旦那丹三郎は、重い口でよく話しますが、その時のことを思ひ出したか、暫らく絶句して固唾かたづを呑みました。
話の重大さに、聽く方がツイ固唾かたづを呑みました。お關の濱路は、何んの作意もなく靜かな調子で續けます。
お紋は固唾かたづを呑みます。剃り落した青い眉がひそんで、酢つぱいやうな口許が、馬鹿に仇つぽく見えます。
その後ろから間の惡さうに跟いて來るガラツ八、家中の者はこの騷ぎに驚いて飛び起きたか、とり/″\の變梃へんてこな樣子で、三人を遠卷にして固唾かたづを呑みました。
皆々固唾かたづを呑みました。焔の叫びの中に、若旦那丹三郎の聲が肺腑を絞つて、凛々と響くのです。
兼松はゴクリと固唾かたづを呑みました。恐ろしい幻滅に直面して、暫くは分別をまとめ兼ねた樣子です。
見物の衆は固唾かたづを呑みました。いよ/\番頭殺しの曲者が正體を現はす段取りになつた樣子です。
ガラツ八の八五郎さすがにきもを潰したものか、固唾かたづが喉に引つ掛つて、二度に感嘆しました。
銭形平次捕物控:126 辻斬 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
お春はその時の驚きを思ひ出したらしく、大きく固唾かたづを呑んで、自分の胸を押へるのでした。
ゴクリと固唾かたづを呑んで、平次を見上げた顏は、痛々しくも泣き出しさうに緊張して居ります。
固唾かたづを呑む人々の前へ、さやもない、小型の匕首あひくちが一とふり、妙に薄曇つて物凄く光ります。
その時のお君の死を見た驚きを思ひ出したのか、心持顏がかげつて、ゴクリと固唾かたづを呑みます。
四ツ谷の與吉はゴクリと固唾かたづを呑みました。口こそ達者だが、精々二十七、八の與吉は、さり氣ない調子では、市ヶ谷中に響いた、菊屋の妾お袖の噂は出來なかつたのでせう。
翁屋の店中の者は月の光の中にひと塊りになつて、平次の論理の發展に固唾かたづを呑みます。
お吉は餘りの物凄ものすさまじい光景を思ひ出したものか、固唾かたづを呑んで絶句してしまひました。
銭形平次捕物控:180 罠 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
泌々しみ/″\とした調子に引入れられるともなく、平次も思はず固唾かたづを呑んで鋭鋒えいほうをゆるめます。
清左衞門はゴクリと固唾かたづを呑みました。目は血走つて、唇を破れるほど噛んで居ります。
湯島のがけを背負つて、大きな敷地に建つた山崎屋の裕福な家の中が、ワクワクするやうな緊張をはらみ、集つた親類縁者近所の衆が、ガラツ八の八五郎を迎へて、固唾かたづを呑むのです。
その時のことを思ひ出したらしく、お玉は美しい顏をこはばらせて、固唾かたづを呑みました。
專次はゴクリと固唾かたづを呑みます。救はれた喜びに、少しボーツとした樣子です。
お常はようやく正氣に還つたらしく、改めて一座の顏を見廻しました。其處には兄嫁のお角と下女のお六と、姪のお紋と、そして御用聞の八五郎が固唾かたづを呑んで控へてゐるではありませんか。
離屋の死骸の前には家中の者が、固唾かたづを呑んで『次の事件』を待つて居ります。
銭形平次捕物控:282 密室 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
此時はもう二階で石順の手當が始まり、伜久太郎夫婦が死骸の世話をして居りますが、殘る人達は廊下から廻つて夜の庭へ出ると、錢形平次と八五郎を取卷いて、固唾かたづを呑んで居ります。
お竹はその時の恐ろしい有樣を思ひ出したらしく、大きく固唾かたづを呑みました。
後の半分ほどは口の中でつぶやくだけで、最後の一句でゴクリと固唾かたづを呑みます。
お萬はその時の凄まじい光景を思ひ出したらしく、ゴクリと固唾かたづを呑みます。
金之助はその時の凄まじさを思ひ出したらしく、ゴクリと固唾かたづを呑みました。
その時の不氣味さを思ひ出したか、榮之助は言ひかけて固唾かたづを呑みました。