呉絽ごろ)” の例文
巻莨まきたばこを吹かしますが、取出すのが、持頃の呉絽ごろらしい信玄袋で、どうも色合といい、こいつが黒いかめに見えてならなかった。……
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それから、この赤い呉絽ごろの紙入だ、滅多にある品ぢやない。この紙入が半三の死骸の懷中にあつたのだ。中には小判で五兩」
私たちがおかみさんの運んで来た渋茶を飲んでいると、古障子を開けて呉絽ごろの羽織を着た中老の男が出て来て声をかけた。
東海道五十三次 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
おびははやりの呉絽ごろであろう。ッかけに、きりりとむすんだ立姿たちすがた滝縞たきじま浴衣ゆかたが、いっそ背丈せたけをすっきりせて、さっすだれ片陰かたかげから縁先えんさきた十八むすめ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
風邪かぜを引いたと見えて、このあついのにちゃんちゃんを着て、小判形こばんなりおけからざあと旦那の肩へ湯をあびせる。右の足を見ると親指の股に呉絽ごろ垢擦あかすりをはさんでいる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
呉絽ごろ
顎十郎捕物帳:03 都鳥 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
えりの合せ目から燃えるような緋無垢ひむくの肌着をちらと覗かせ、卵色の縮緬ちりめんの着物に呉絽ごろの羽織、雲斎織の袋足袋ふくろたび、大脇差
茶屋知らず物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
八朔はつさくの宵から豪雨になつて亥刻よつ(十時)近い頃は漸くこやみになりましたが、店から屆けてくれた呉絽ごろの雨合羽は内側に汗をかいて着重りのするやうな鬱陶しさ——。
むすめちた団扇うちわながに、呉絽ごろおびをかけると、まわ燈籠どうろうよりもはやく、きりりとまわったただずまい、器用きようおびからして、さてもう一まわり、ゆるりとまわった爪先つまさきえんとどめたその刹那せつな
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
それは、エメラルド・グリーンの素晴らしい呉絽ごろ翡翠ひすゐの息づくやうな飾りが付いて、金無垢の小ハゼで留めた、平次も見たことのないやうな、恐ろしく豪華なもの。
懷中ふところを搜ると、奧深く入れてあつたのは、何んと女持の赤い呉絽ごろの紙入で、中から出て來たのは、小判が五枚。その頃の經濟事情から言へばこれは容易ならぬ大金です。
取出したのは、緑色呉絽ごろの紙入、半分は化粧道具を疊み込んだ、それは洒落しやれたものでした。辰三はそれを、自分の物ででもあるやうに、至つて氣樂に八五郎の手の上に置くのです。
地質は呉絽ごろという毛織で、明治になっては風呂のアカ摺りに、名残りをとどめた。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
畳の上に落ちていた赤い羅紗ラシャの紙入を開けると、小菊が二三枚と、粉白粉こなおしろいと、万能膏ばんのうこうの貝と、小判形の赤い呉絽ごろの布と——その布の裏には、ベットリ膏薬が付いているではありませんか。
銭形平次捕物控:124 唖娘 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
疊の上に落ちてゐた赤い羅紗らしやの紙入を開けると、小菊が二三枚と、粉白粉と、萬能膏ばんのうかうの貝と、小判形の赤い呉絽ごろの布と——その布の裏には、ベツトリ膏藥が付いて居るではありませんか。
銭形平次捕物控:124 唖娘 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)